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目撃

貴族の邸宅で開かれる、煌びやかな舞踏会。

月明かりと仄かにライトアップされた庭園は、昼間とは違って幻想的な雰囲気を演出していた。

貴族の密会として定番であるこの場所に、恐る恐る足を踏み入れてしまったミレーユは、木陰で息をひそめる。

亜麻色の髪にエメラルドの瞳を持つミレーユ。派手さはないものの、控えめな美しさがある。

そんなミレーユの視線の先には、仲睦まじ気に腕を絡めあい、微笑み合う男女。

見つめ合い、互いの顔が少しずつ近づいていき、口付けを交わす。それは激しく互いを求めるような濃厚な物に代わり、男の手が女のドレスを弄る。

生々しい男女の息遣いがここまで聞こえて来そうなほど、二人は夢中になっていた。きっと今は、世界に二人だけしかいないとさえ、錯覚しているのだろう。

ミレーユは今まさに目の前で絡み合っている最中の男、ユージオ・エルランジェ伯爵の妻である。

ひと時の夢の様な時間に酔いしれる二人。

あまりの事に今は、もう何も考えられずひたすらエメラルドの瞳に、眼前の光景をただ映すのみ。

ミレーユの瞳からは、気付けば一雫の涙が零れ落ちていた。悲しいのかさえよく分からないのに、涙は流れてくるなんて不思議だ。

息がつまり、呼吸の仕方も忘れてしまいそうになるほど。何も考えられなくなった脳内は、背後に人が近づいて来た事も気付かず、手を引かれた事を理解するのにも一拍遅れてしまった。

そして声を上げそうになったすんでの所で、何者かの手によって口を塞がれてしまった。

（何……誰！？）