最終話 ユートピア
異世界に行くのって案外簡単なんだな。最終回です。
多少過激な表現がありますのでご注意下さい。
次の日の朝、王宮の前には、沢山の市民達が列をなしていた。
昨日の、カミルの、声明のお陰だろう。
2人は、毒ガスを吸わない用一応、ガスマスクをした。
もちろんこのガスマスクも、超作成で作った物だ。
「凄い数ですね」
「そうだね、早速始めようか」
「快楽の為の虐殺を」
そう言うと、2人、王宮の門を開けた。
市民達は、謎の病原菌の存在に恐れをなしているのか、我先にと、王宮の中へ入って行った。
「慌てないで下さい」
「皆様、こちらが消毒庫です」
「押さないでゆっくり入って下さいね」
言葉巧みな誘導をし、消毒庫と偽った、毒ガス室に市民達を次々入れた。
「これから消毒を散布しますので扉を閉めますね」
一時間程で、市民達を毒ガス室に入れ終わると、2人で、毒ガス室の扉を閉めた。
扉は、鉄でできたとても頑丈な物で、当たり前だが、内側からは、開かない構造になっている。
全ての扉を閉め終えた2人は、市民達の表情に、思わず笑いそうになっていた。
その表情は、消毒のおかげで、病原菌にかからないと、安心し切っり安堵した表情だったからだ。
「間抜けな人達だわ」
「これから苦しみながら死ぬのに、自分達は、病原菌から助かると、思っているんですもの」
そのカミルの言葉に、心が笑いながら言う。
「ハハハ、可哀想じゃ無いかそんな言い方」
「むしろこの人達は、恐怖せずに死ねるんだから、その時を喜ぶべきだろう」
「俺達の慈悲に感謝すべきなんだ」
「確かに、そうですわね」
そんな会話をしてるうちに毒ガスの散布スイッチの前についた。
「2人で一緒に押そう」
心がそう言うと、心の手の上に自分の手を覆い被せた。
「3.2.1.で押そうね」
カミルの言葉に心が頷く。
そして王国民一万人の、死のカウントダウンが始まった。
「3.2.1.」
「ポチ」
2人は、勢いよくそのスイッチを押した。
その瞬間、毒ガス室に、強力な毒ガスが、吹き出した。
ものの数秒でそれが消毒では、無い事に人々は、気づいた。
毒ガス室は、正に、地獄絵図になっていた。
人々は、苦しみ、血を吐き、泡を吐き、あまりの苦痛に舌を噛み切る者、喉を掻きむしり血まみれの者。
助けてと、お母さんに、しがみ付く子ども、それを見ながら生き絶える家族。それは、今までの殺戮とは、違う快楽に満ち溢れていたのだ。
「ああ〜素晴らしい、なんて光景なの」
「こんなにも、美しい景色を見られるなんて」
カミルは、感激のあまり、涙を流しながら笑っていた。
心は、そのカミルの、喜ぶ姿に、これまで以上の優越感を感じた。
「カミル、俺は君に出会えて本当に、良かった」
「これから先もずっとカミルと一緒に、居たい」
「だから、俺と、結婚してくれ」
人々が、苦しみ、死んで行いく中、心は、カミルに、押さえきれなくなった感情をぶちまけたのだった。
その、場違いな、プロポーズも、カミルにとっては、これ以上にない、最も最高なシチュエーションでの告白なのだ。
カミルは、心の懐に走りながら飛び込むと、耳元で、囁いた。
「喜んで」
カミルの、返事に心は、思わず涙が溢れた。
「心、ありがとう」
「私も心事、大好きだよ」
「だから、いつまでも2人で楽しみましょう快楽の為に」
2人は、急いで部屋へ戻り、その愛を確かめるように、抱きしめ合うのであった。
翌朝、目を覚ますと、2人は、生き残りの確認の為、王都を散策した。
「誰も居なさそうですね」
「ちゃんと全員始末出来たのかな?」
「それなら、いいのだけど」
心は、嫌な感じがしていたが、その予感は、的中するので、あった。
話は、昨日に、遡る。
王宮に集まる時間に、遅れて来た家族がいたのだ。
その家族が、見たのは、毒ガス室で苦しむ人々だった。
咄嗟に危機を感じた家族は、急いで王都を抜け出したのだ。
近くの村に駆け込んだ家族は、今の王都の状況を説明し、助けを求めた。
村の人々は、近隣の村や町にその話を回し、話し合いの末、王都の奪還と、もう一つある行動に出る事にした。
それは、カミルと心の始末だった。
この2人の、異常な行動に、殺害以外の選択肢は、無いと皆の意見が一致したのだ。
その中には、以前心に村を救われたバーラッキの姿もあった。
「ヤツは、危険だ」
「皆、心して掛かるように」
バーラッキのその言葉に、皆、気が引き締まった。
そして、村の人々は、武器になりそうな物を手に取ると、皆で向かう事にした。
王都奪還へと。
それから3日後、カミルと心は、王都の外でそんな事が起きているとは、知らず、2人で、ご飯を食べながら、話していた。
「こないだの毒ガスは、よかったね」
「そうだね」
「今までで一番の気持ち良さだったかも」
「またやりたいわね」
「うん、いつかもう一回やろうね」
2人がそんな会話をしていると、外から叫び声が聞こえてきた。
「お前達2人の行動は、許される物では、無い」
「これから王都奪還の為2人を処刑する」
心は、察した。
「やっぱり、昨日王宮に来てない人が居たんだ」
「その人が、逃げてたぶん助けを求めて戻ってきたんだと思う」
窓から外を覗くと、その数に圧倒された。
「これ、不味くない」
カミルが心配そうに言った。
「確かに、この前の王都の人口とは、比べ物にならないぐらいの人達だ」
その数は、おそらく王都の5倍程、約5万人。
2人は、焦った。
どんなに、凄い武器でもこの人数に勝つのは、かなり無理があるからだ。
「ここまでか…」
心が、そう呟くとカミルは、今までに見た事の無い表情で、怒った。
「何を言っているの」
「私達に、恐れるものは、無いって貴方が言ったのでしょう」
「何を今更、諦めているの」
「そんなの心らしくない」
その、カミルの激怒に、心は、圧倒されたが、そのおかげでで、いつもの様子に戻った。
「すまない」
「もう大丈夫」
その言葉に、カミルは、安心した。
そうこうしてると、外からまた声が聞こえた。
「心君、バーラッキだ覚えているか」
「君に村を救ってもらった事は、感謝している」
「が、君の行動を見過ごす訳には、行かない」
「だから、大人しく出てきてくれないか」
「10分待っても返答が無い様なら王宮を制圧する」
その声は、2人にもハッキリ聞こえる程の大声だった。
「どうしますの」
「どうするって、大人しく出てくなんてゴメンだ」
「でも、この状況は、かなりヤバい」
「王宮は、取り囲まれているから逃げ場は、無さそうだしな」
「最悪、俺が囮になればカミルだけでも逃げれるかも」
その言葉に、カミルは、心の顔を引っ叩いた。
「ふざけないで」
「私達は、夫婦なのよ」
「こないだの、告白は、嘘だったの」
「違う嘘なんかじゃ無い」
「カミルは、俺の1番大切な人なんだ」
「だから、カミルだけは、死なせたく無い」
「たぶん、大人しく出ていったとこで俺達は、処刑されるだろう」
「だから、カミルだけでも逃げれればと」
カミルは、呆れた顔で言う。
「違う、心は、何もわかっていない」
「私が言いたいのは、夫婦なんだからいつでもどんな時でも一緒じゃなきゃダメだと言う事」
「それは、死ぬ時でも…」
やっと心は、理解した。
それと同時に、心は、ある決断をカミルに迫った。
「カミル、俺と一緒に、死んでくれ」
カミルは、心が、ようやく分かってくれたのだ悟と耳元で囁いた。
「心、ありがとう」
その言葉に、自然と涙が溢れた。
今までの行いがいかに愚かで身勝手な、事だったのかこの瞬間、初めて悔いた。
だが、人は、そんな簡単には、変わらない。
醜い者は、醜く、そして殺人者は、いつまでも殺人者なのである。
「カミル、よく聞いてくれ」
「俺は、死んでくれと言ったが、ただ死ぬ気は無い」
「どうせ死ぬなら、この世界の全員を道連れにしたい」
「何せ、俺らは、快楽殺人者なのだから」
「死ぬその瞬間まで、2人で快楽に溺れよう」
カミルは、そっと頷くと、心に、問いかけた。
「でも、一体どうやってこの世界の人全員を殺すのですか」
心が、一息入れると、言った。
「核爆弾だ」
「核爆弾?」
「そうだ」
「それは、一発の爆破で何万にもの人を殺せる爆弾だ」
「あまりの威力に、その爆弾が落ちた所は、人が住めなくなる」
「そして、今回はこの世界全ての人を殺す程の威力が必要だから、この爆弾を、超作成で沢山用意する」
「それこそ、この世界全てが灰になるぐらいの数を」
「もう時間がない、王宮に入ってくる前に超作成で作らなきゃ」
そう言うと、心は、バルコニーに出て素早く、超作成を使った。
「これが、最後の超作成だ」
その瞬間、王都の至る所に、核爆弾が敷き詰められた。
そして、心の手には、世界の終わりを告げることができる1つのボタンが、作成されていた。
外にいた人々は、いきなり現れたその物に驚いたが、その場を離れようとは、しなかった。
「カミル、準備はできた」
「後数分で、王宮に乗り込んで来るだろうからそれを、世界の終わりの始まりとしよう」
「わかりました。心」
正直、怖かった。
今まで、数えきれない程、殺したのに。
いざ自分が、死ぬとなると、逃げたくて、助けて欲しくて、許して欲しくてたまらなかった。
カミルも、同じ心境だったと思う。
2人で、震えた手を取り合いながら、じっとその時を待った。
恐怖で震える手が、今にもボタンを押してしまいそうでそれを堪えるのに必死だった。
ほんの数分がまるで何日かの様に思えて仕方が無かった。
そして、その時は、来た。
「時間だ」
その声を、合図に王宮の門をよじ登り、人々が続々と入って来たのだ。
「来たみたいだね」
「そうですわね」
「最後に言い残す事ある?」
心が、カミルに言うと、直ぐに答えた。
「心に出会えてよかった」
「私は、今までの事に後悔は、無いけど、わがままを言うなら、次の世界でも貴方に会いたい」
「俺もだよ」
「カミルが居たから、楽しかった、嬉しかったそして、分かち合えた」
「だから、死んでも俺たちは、ずっと一緒に居られると思う」
「カミル、愛してる」
「今も、これからも」
その言葉を最後に、優しくそして、激しく口付けをすると、核爆弾のボタンを2人でそっと押した。
外は、轟音と、世界を包む様な激しい光に覆われた。
その瞬間、2人は、感じた。
この世界で最高にして、最強の、何者にも感じられない、2人にしか、体験する事の出来ない、極上の、快楽を。
そして、2人にとっては、恐らくこれ以上に、無い、至福に満ちた、最後だった。
誰1人として生き残りは、居ないだろう。
世界の終わりを告げたのだから。
それでも、いつかは、また世界が始まるのかも知れない。
もしかしたら、前世界に居た方が、真っ当な人生だったのかも知れない。
でも、もう一度人生をやり直せるとしても、俺は、この世界に行き、同じ事をやるだろう。
それは、俺の意思であり、そうでもない。
人の人生は、大体決まっているのだ。
あの本を手にしたのも、この世界に来たのも、恐らくは、神様の思惑通りだと思う。
つまり、言いたい事は、この世界に、選択肢などあるようで無いのだ。
全ての、行動や発言、感情それは、既に決まっているのだ。
それでも、人は、自分でありたいから、全ての物事を自分で選択していると、自分で錯覚させている。
人間とは、そう言った愚かで、脆くて、醜い生き物だ。
だけど、それに気づかなければ、それなりに楽しい人生になるのかも知れない。
どんな人生にも、何かしらの良いところはある。
それは、俺の、人生にもだ。
カミルに出会い、共通の感情を持ち、愛しあった。
だから俺は、人を嫌いになれない。
たとえその、出会いが、敷かれたレールの上でも。
人生の最後に俺の、いや俺らの夢は、叶ったんだ。
そもそも、俺らの世界は、ここでは、無かったんだ。
魂が抜け、その行く先が俺とカミルの本当の居場所。
2人で夢見た、この世に存在しない、最高の楽園。
そう、真のユートピア、天空のユートピアに、俺達は、行けたのだから、これ以上の幸せは、無いだろう。
完
最後までご覧頂きありがとうございました。
以上で、異世界に行くのって案外簡単なんだな。完結になります。
最後までお付き合い頂きまして誠にありがとうございました。