悪役令嬢はなぜかオネェ殿下に惚れられた
オネェ王子にふと転がってきた幸運
この公爵令嬢である私をバカにしているの!?
「ジョセフィーヌ・レッドローズ!貴様は公爵令嬢という身分でありながら、男爵令嬢であるナターシャを虐めたな!そんな貴様は僕の婚約者に相応しくない!婚約を解消させてもらう!」
「なっ…!?」
「そしてこの僕の愛おしいナターリア・ホワイトリリーを新たな婚約者とさせてもらおう!」
「レオン様、いつの間にそんなバカになったんですの!?」
「なに!?」
「まず、いくら王太子とはいえ公爵令嬢相手に貴様はあり得ませんわ!」
「うるさい!貴様などすぐにでもナターシャを虐めた罪で貴族籍を剥奪してやる!」
「公爵令嬢がたかだか男爵令嬢を虐めただけでなんの罪に問えるというのです!」
「え!?そ、それは…その…」
「せめて云い澱まないでくださいませ!かっこ悪い!」
「うぐっ…」
「そもそも虐めなど冤罪ですわ!ちゃんと調べたんですの!?」
「そ、それは…ナターシャの…」
「証言だけですのね!?それで私を断罪したんですのね!?最低ですわ!」
「うぐぅ…」
「私をお疑いならそもそも私についている王家の影に聞けばいいではありませんか!」
「え?」
「…呆れた。レオン様。私はレオン様の婚約者。当然常に王家の影に見張られていますわ!」
「なに!?ぼ、僕はそんなこと知らない、知らないぞ!」
「では特別に出てきていただきましょう。影の皆様、お願いします!」
「はい!」
「な、本当に王家の影が…」
「影の皆様…私、そこの男爵令嬢さんを虐めたことなどありまして?」
「いいえありません」
「な、…ナターシャ、これはどういうことだ?」
「…わ、私知らない!…きゃっ」
逃げようとする男爵令嬢さんの足を引っ掛けて転ばす。
「影の皆さん、お好きにどうぞ」
「はっ!」
「な、なによ!離しなさいよ!」
「貴女には王太子殿下を誘惑し、思うがままにしようとした内乱罪の疑いがかかっています。一緒に来ていただきます」
「王太子殿下。貴方様にも追って国王陛下から話があるはずです。…お覚悟を」
「な、な…私は悪くない!簡単に引っかかるバカな男が悪いのよ!」
「ぼ、僕は悪くない!悪いのはナターシャだろう!」
「まったく、お二人には呆れましたわ…」
ー…
結局、レオン様は国王陛下の定めた私との婚約を勝手に破棄しようとし、男爵令嬢を婚約者にしようとした罰として王太子位剥奪の上、子を持つ機能を奪って生涯離宮に幽閉。第二王子殿下が新しく王太子位に就きました。男爵令嬢さんは王太子を誘惑し、思いのままにしようとした内乱罪などの罪で見せしめとして処刑されました。
一方で私は、国王陛下から直々に私の責任ではないとのお言葉と、今までの王家への献身を労うお言葉、そして慰謝料をたくさんいただきました。両親も兄も、私のことを大変心配してくれて、すぐに立ち直ることができた…のですが…。
「フィー、また来たわよー」
「第二王子殿下!」
「いやねぇ、私のことはリカルドと呼んで頂戴。そもそも今は王太子よ?」
「あ、失礼致しました。王太子殿下」
「りーかーるーどー。それかリードとお呼びなさい?」
「リカルド様」
「よろしい」
なでなでと私の頭を撫でるリカルド様。女装しているわけでもないし、見た目だけなら物凄い美男子なだけに、優しくされるとちょっとだけときめく。だがいかんせん女言葉…。
「フィー、いい加減私と婚約しましょうよ」
「嫌です。リカルド様は年下ですし、オネェ口調ですし」
「やん。もう、意地悪ね」
「大体、なんで私なんですか」
「あのバカ兄をコテンパンに言い負かしてくれたんだもの、憧れるわ」
「ええ…」
「…まあ、幼い頃の一目惚れが理由なんだけど」
「?」
「なんでもないわ。さあ、今日も手作りケーキを作ってきたの。食べるでしょう?」
「!食べます!」
「うふふ。素直ね。今日はオススメの紅茶の茶葉を持ってきたから、これを淹れてあげるわね」
「リカルド様、大好きです!」
「あらやだ嬉しい!」
ー…
「ねえ、フィー。さすがに、貴女警戒心がなさすぎると思うの」
今フィーは、私の作ったケーキをお腹いっぱい食べて、私の淹れた紅茶を楽しんだ後うとうとし始めて、ついに眠気に負けてうたた寝している。
「私、男として意識されていないの?もう」
眠っているフィーのおでこにキスを一つ落とす。
「フィーは忘れてしまったようだけど、私は忘れないわ。あの時から私はフィーに一筋よ」
あれは忘れもしない私の幼い日。私は当時、病弱だったため魔除けのために女の子として育てられていた。そんな私はある日、本当は男の子なのに女の子として育てられるストレスから王宮の中庭で一人隠れて泣いていた。そんな私に、優しく微笑んで手を差し伸べてくれたのがフィー。その微笑みに私は魅了されたのよ。
「…あら、そろそろ時間ね。帰らないと」
「んん…王太子殿下?」
「フィー、リカルド、と呼んで頂戴?」
「リカルド様、もうお帰りですか?」
「ええ。また明日、美味しい手作りケーキを作ってくるわね」
「楽しみに待ってます!…あと、寝ちゃってごめんなさい!」
「いいのよ。まだあのバカ兄のことで夜はよく眠れないんでしょう?私の側が落ち着くなら、喜んで」
「…ありがとうございます、リカルド様」
「じゃあね」
「はい」
ー…
さて、最近私とリカルド様との婚約が近いんじゃないかと噂が広まっている。そして事実、陛下と父はそれを話し合っているし、リカルド様も乗り気だ。私も…その。満更でもない。
そんなこんなで今日はリカルド様とオペラを観に行く約束がある。待ち合わせ場所まで馬車を出す。
途中の人通りの少ない道で…がたんっ!と音を立てて馬車が止まった。外が騒がしい。やがていかにも悪党ですといった見た目の者達が私を馬車から乱暴に引きずり出す。私は何者かに攫われた。
ー…
おかしい。フィーが来ないわ。遅刻してくるような子ではないのだけど…。何かあったのかしら?
しばらく待ち続けたら、私の婚約者候補としてフィーに付けていた王家の影の一人が魔術で私に報告してくる。…フィーが攫われた。相手は中々の手練れらしく、影だけでの救出は難しいとのこと。
私はすぐさまフィーの居場所を影に聞き、フィーを迎えに行く。ごめんなさいね、フィー。今助けるわ。
ー…
私はどこかの家の地下に閉じ込められた。…でも、多分大丈夫。リカルド様が来てくれるだろうと心の底から信じてる。…まだ、婚約もしていないのに、自惚れすぎかしら?
と、思っていたら、突然上の部屋から爆音が。リカルド様かしら?
「な、なんだ貴様は!その魔力は…!?」
「ええ、ご存知の通り王家の者よ?私の婚約者候補に随分なことをしてくれたわね」
「…ま、待ってくれ!俺たちはただイエローサンフラワー家の当主に金で雇われただけで!」
「あらそう。自白ありがとう。眠ってなさいな」
「うぐっ」
「うおっ」
「がぁっ」
「…もう大丈夫よ、フィー!いるなら返事をして!」
「ここです!」
「フィー!」
リカルド様に助け出される。
「フィー、怪我はない?大丈夫?」
「大丈夫です。ありがとうございます、リカルド様」
リカルド様は私を強く抱きしめて離さない。ふふ、なんか安心した。
「ねえ、フィー。やっぱり正式に婚約しましょうよ。貴女にはもっとたくさんの護衛が必要だわ」
「…。レオン様みたいに浮気しません?」
「もちろんよ!あのバカ兄と一緒にしないで頂戴!」
「じゃあ、…よろしくお願いします」
「…!フィー、嬉しいわ!ありがとう!」
リカルド様が、私を抱きしめてくるくる回る。もう、リカルド様ったら。
ー…
その後数ヶ月。イエローサンフラワー家はちょっとだけ過剰な気もするがお取り潰しに、悪党達はやはり過剰な気もするが見せしめとして処刑。
私とリカルド様の婚約は正式に発表されて、たくさんの人から祝福された。
「愛してるわ、私のフィー」
「私も大好きです、リカルド様」
よかったら他の小説もよろしくお願いします