第一話「どうも社畜です」
誰にでもあるよな?俺だけじゃないよな?
こんな感じの、寝る前の妄想だよ。
「明日突然隕石が会社に落ちてくる。奇跡的に嫌な上司だけ死んで、会社はしばらく休み。給料は出る」
誰だって一回か二回ぐらい思ったことがあるはずだ。
ない?嘘をつくな。別に恥ずかしいことじゃない。
誰でも思ったことがある。
ただ俺の場合は、その回数が多過ぎたのかもしれない。
毎晩毎晩、寝る前の日課になっていた。
すっかり趣味の一環になってたんだよ。昨日なんか、かなりリアルにシミュレートできたんだ。
でもこんなことは初めてだった。
その妄想の光景が、朝になっても消えてない。
まぶたの裏じゃなくて、俺の頭の中じゃなくて、テレビの画面でその光景が映されてる。
地デジのハイビジョンの4Kでだ。
…………ごめん盛った。少なくとも地デジだ。
どこからどう見ても、あのおぞましいゲロ袋のような弊社に隕石が落ちてきていた。らしい。
吐き気を催すあの綺麗で立派なビルが、美しい瓦礫と鉄筋コンクリート片の山と化している。
ニュースによると、こんな感じだ。
「繰り返しお伝えしていますように、今日午前四時ごろ、Y社ビルに隕石が飛来し建物が全壊しました。現在のところ死者、怪我人は確認されておりません。消火活動も完了した模様です」
やっと目が覚めてきた。睡眠状態からも、妄想からも。
これは現実だ。マジの出来事だ。
会社に隕石が落ちた!ピンポイントで!死者なし!
これは普通に喜ぶべきじゃないか!?不謹慎だけど!!
本音が先に出てきた!!流石にしばらく休みだろう!!
♪パコポンポコパコポココポン♪
おっとここで会社から電話だ。ゴホン。
皆さん今から一度だけ俺の名前を言うので聞き逃さないように。
「おはようございます。イガラシです」
「はい……はい。ニュースで見ました。ええ、ええ。はい。私は無事です。その時間家におりましたので……ええ」
「……すみません。えと、あの、残業はしていましたが、午前四時には、その、流石に帰宅しておりましたので……」
「……は?あ、し、失礼しました。その、あの……こ、この状況で、ですか……?」
「……はい、はい……分かりました……では会社の、跡地に…………」
「はい、出社いたします……はい……失礼いたします……」
プツッ。ツーツーツー………
……何も言うなよ。
俺だって何か言いたいけど我慢してるんだぞ。