#7 祈りの騎士、クールムーン誕生!(後編)
黒い衣服に身を包んだ少年は静かに歩き続ける。
灰色になった人や物を掻き分けてただ歩き続ける。
カツンカツンと靴の音だけを響き渡らせて――。
何かを探しているのか、少年は目に入る扉すべてを開けて中を確認する。
そして、誰もいないことを確認して閉める。
これを繰り返していたのだが、とある部屋だけでは違った。
ガチャと扉を開けて同じように中を確認した。
中には人影が3つ――。
内1つが動いたのだった。
「誰だ、貴様!」
人影は少年に気付くと、軽々と窓の外に消えていった。
少年はモアイ像から音波を放ったのだが、残念ながら一歩遅かった。
「くそっ!!」
少年は走った。
絶対にあの人影を捕まえてやるという信念を持って走り続けた。
扉を開く。
しかし、誰もいない。
また、別の扉を開く。
しかし、また誰もいない。
「誰を探しているの?」
少年が後ろを振り向くと、そこには紫色のコスチュームに身を包んだ少女がいた。
「貴様――」
「こっちだよ――」
少女はまた軽々しくその場から姿を消した。
「待て!!」
少年は少女を追いかける。
必死で追いかけながらモアイ像から音波を放つ。
しかし、走っていると焦点が定まらないものだ。
的外れなところばかりが灰色に染まっていく。
やがて、太陽の光が少年を照らした。
どうやら、建物の外に出てきてしまったらしい。
ここは、敷地内の庭であろうか――。
様々な種類の花や草木が飾られていた。
もちろん、色とりどりの――。
「まぁお茶会の場所としては文句ないんだけど、ちょっと華やかすぎるかな?でも、モノクロにしたらアペス様は喜ぶかもね」
しかし、どうやら少年の心には響いていないらしい。
カラフルな光景はどうも彼の目には合わないとみえる。
「それだけは許さないよ」
声に気付いたときにはすでに遅かった。
少年の腕からモアイ像が振り落とされた。
何も言わずゴロゴロと転がっていくモアイ像。
「しまった!!」
少年がモアイ像の方へ一歩足を踏み切ったときだった。
「ムーン プレイ・クレセント!」
少年とモアイ像めがけて放たれる紫色の光――。
やがて、地面には力なくモアイ像が転がっていった。
少年はというと、間一髪でその光から免れたようだった。
「貴様、何者だ!」
「祈りの騎士、クールムーン――」
紫色のコスチュームに身を包んだ少女はそう名乗った。
髪の色はやや濃い紫色――。
右上で少しだけ束ねている髪が伸びて、その髪型がまるで半月を思わせるようなものであった。
腰にはこれまたかわいい月のコンパクトが飾られていた。
「皆さんを襲ったこと――。兄を襲ったこと――。絶対に許しません!覚悟してください!!」
祈りの騎士と名乗る少女は手にしていたロッドを構え、戦闘体勢に入った。
少年も戦闘体勢に入ろうとしたのだが、先程光を避けた際に足を負傷してしまったらしい。
万全の状態で戦えない以上、彼の敗けは確実だろう。
「次は絶対に負けないからね――」
少年は吐き捨てるようにそう言うと、姿を眩ませたのであった――。
クールムーン
祈りの騎士。ムーンロッドを駆使して華麗に戦う。果たしてその正体は――。




