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虹色騎士 クールナイツ ~cool knight~  作者: 彼方 菜綾
♮1 クールナイツの誕生
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#4 笑顔の騎士、クールサン誕生!(前編)

 今日は休日――。

 近くの大型スーパーは家族連れなどがたくさん訪れており、非常ににぎわっている。


 その中でも屋上はさらに多くの家族連れが集まっていた。

 用意された特設ステージの前で目を輝かせながら待つ子供たち――。

 どちらかというと女の子が多いだろうか――。

 

 席の後ろの方では学生らしき者の姿も見受けられる。

 こちらも女の子が多いだろうか――。

 さて、彼女たちの目的は――。


 実は今日は待ちに待った乙女おとめ怪盗団かいとうだんのショーが行われる日なのである。


 乙女怪盗団とは今、女の子たちに人気の少女アニメ――。

 怪盗団団長であるサニータ、怪盗団団員であるクラウディア、同じく怪盗団団員であるレーナの3人の怪盗が主人公の作品である。

 

 彼女たちはその名の通り怪盗を職業としているのだが、ただの怪盗ではない。

 悪の組織ゲリラ団によって盗み出された人々の大切な宝物を取り返す怪盗なのである。

 その人柄のよさ、また悪の組織にめげずに立ち向かう姿が今時の少女たちのハートを掴んだらしい。

 ここだけの話、グッズの売り上げは年間1,000万円を越えるという。


 さて、ショーの始まりを待ちきれない観客たちの声が屋上全体に響き渡る。


 その中に1人、つまんなさそうに人々を見渡す少女の姿があった。

 黒基調の服を身にまとい、サングラスをかけた少女。

 

 炎天下の屋上でその服装とは暑くはないのだろうか――。

 同じような疑問を抱く者も多いのか、その少女を見た人々はこそこそと話ながらその場をそそくさと去っていく。


「暑っ――」


 少女は呟くと空を見上げた。

 空は雲ひとつない快晴であり、太陽がさんさんと照っている。


 そんな明らかに不審者に近い少女に近づく者が1人――。


「あっ何してるんですか!こんなところで油売ってたら困りますよ!早く裏に入ってください!」

「はぁ?何のこと――」


 男性は少女の言うことを無視して手を引っ張る。

 来ているTシャツには「STAFF」とかかれているので、おそらくこのショーの関係者であろう。


 そして、そんな少女が連れてこられたのは今回のショーの控え室だった。


「何で悪役があんなところで突っ立てたんですか!子供たちの夢はちゃんと守ってくださいよ!」

「あぁ申し訳ない――」


 どうやら、この男性スタッフは少女を出演者の1人と勘違いしたらしい。


 男性が控え室を出ていくのを確認すると、少女は大きなため息をついた。

 そしてここからさっさと去るために控え室を出ようとしたのだが、ふとあるものが目に入り足を止めた。

 彼女の視界に入ったもの、それはゲリラ団団長ゲリラ将軍であった。


 少女はゲリラ将軍に手を振ってみた。

 しかし、反応はない。

 

 少女はゲリラ将軍に蹴りを入れてみた。

 しかし、自身の足に痛みが走るだけで反応は全くなかった。


「あんた、そこに突っ立てるだけじゃ何も出来ないでしょ?わたしがちょっと力を貸してあげようか?」


 そう言うと、少女は白色の鍵を取り出した。


「さぁおいで!モノクローム!」


 そう言い放つと、ゲリラ将軍の胸元に鍵をさし、回す。

 まるで、鍵穴に鍵をさして開けるかのような行為であった――。


 やがて、ゲリラ将軍の目が怪しく紅く光る。


「さぁあいつらの大切な物を盗んでおいで!」


 ゲリラ将軍は指示通り、控え室を出ていった。


 少女はそれを見届けると高らかに笑うのであった――。


 ☆


 一方その頃――。

 

 日向ひなたは全力で走っていた。


「もう!何でママはわたしが用事があるってときに限って忘れ物をするのよ!」


 実は日向も友達とともに乙女怪盗団のショーを見に行く予定だったのだが、日向の母親が仕事に使う大事な書類を忘れたため職場に届けていたのである。


「ダメだ、出ない――」


 友達に電話をかけるが応答はない。

 おそらく、観客たちの声で着信音がかき消されているのだろう。


「あー、もうショーが始まっちゃう!」


 ここだけの話、実は日向も乙女怪盗団の大ファンなのである。

 推しはサニータ――。

 その証拠に今も鞄にはサニータのマスコットがついている。


 今日のショーは仲良しの星奈ほしな月美つきみと見に行くのだろうか――。

 残念ながら、星奈と月美はそこまで乙女怪盗団に興味を示してはいない。

 名前は知ってるという程度の認知である。


 今日のショーは陽炎かげろう中学校で知り合った友だちである谷山たにやま真実まみ宮野みやの悠佳ゆうかと見に行くのである。

 真実と悠佳とは乙女怪盗団を通じて仲良くなった。

 日向にとって推しのサニータについて語り合える唯一無二の友だちとなった。

 そうして友だちとなった直後に、この乙女怪盗団のショーの話が耳に入ってきた。


 陽炎中学校で知り合った友だちと初めてのイベント参加――。

 なのに、出鼻をくじかれたというわけである。


「もう最悪――」


 全力疾走をしたおかげで母親の職場から15分ぐらいで目的のスーパーに着くことが出来た。

 日向は息を切らせながらもエレベーターの到着を待つ。


『屋上に行くつもりならやめた方がいいわよ――』


 突如として聞こえた声に日向は辺りを見渡した。

 しかし、周りに人はいるものの日向に話しかけたと思われる人はいない。


「気のせいかな?」


 日向は再びエレベーターを待つ。

 

 しかし、休日のエレベーターというのは来るのが遅い。

 来たとしても、既に定員数乗っていて乗れないというのがオチだ。


「もう!」


 日向はその場を離れて、エスカレーターへと向かう。

 上りエスカレーターをかけていたときにも声は聞こえた。


『屋上は危険だから行くつもりならやめた方がいいわよ――』

「さっきから誰よ!」


 いきなり大声を張り上げる日向に周りの人々は驚いたように視線を送った。


 日向は顔を真っ赤にさせて、さらに上りエスカレーターをかけ上がった。


「ちょっと休憩――」


 はぁはぁと肩で息をして呼吸を整える。

 「さぁもう一息」と残りのエスカレーターをかけ上がろうとして、日向はふと足を止めた。

 なぜなら、そこにはもう上りのエスカレーターはなかったからである。

 

 日向は周りを見渡してみる。

 案内板には「屋上」と書き込まれていた。

 しかし、屋上にしては何かしらの違和感があった。

 次第に呼吸が整っていくと同時に、その違和感が確実なものとなった。


 音が何もしない――。

 もうすでに乙女怪盗団のショーは始まっているはずなのに何の音も聞こえないのだ。

 

 確かに、ショーが行われているだろう屋外への扉は閉めきられているが、この扉にここまでの防音性があるとは思えない。

 それどころか、店員の声や客の足音すらも聞こえない。

 聞こえるのはエスカレーターが動く音のみ。


 そういえば、日向以外に屋上へ向かう人はいただろうか――。


 日向は店内を覗いてみる。


 そこにはびっくりするぐらいに誰の姿もなかった。

 店員も含めて乙女怪盗団のショーを見ているのだろうか――。

 そんなバカげた話があるはずがない。


 日向の呼吸が再び荒くなる。


「おや、ショーを観に来たの?」


 さっきまで誰もいなかったはずの扉の前にとある少女が立っていた。

 あのサングラスをかけた少女だ。


「催し物会場はこっちだよ」


 少女に手招きをされて、なぜか日向は扉の前へと足を進めてしまった――。


「It's show time!!!」


 そして無理やり屋上へ押し出され、扉を閉じられてしまった。


「ちょっと!!」


 扉を開けようとするが鍵を閉められてしまったのかびくともしない。


「お母さーん!!」


 後ろを振り向くと1人の女の子が泣き叫んでいた。

 母親とはぐれてしまったのだろうか――。


 「どうしたの?大丈夫?」と声をかけてあげたかったが、日向の足はすくんで動けなくなっていた。

 なぜなら、彼女の視界に入るものすべてが真っ白だったからだ。

 店はもちろん、たくさんの人々が真っ白になっていた。


「お母さーん!!」


 少女の母親も白く塗り替えられてしまったのだろうか――。


 泣きじゃくる少女の前にとある人影が近づく。

 その人物は少女の頭を優しく撫でてあげた。


 少女は泣き止んだのだが、その表情はポカンとしている。

 そして、その表情のまま白く染まってしまった――。


「嘘、でしょ――」


 日向は後退あとずさりをする。

 しかし、後ろは開かずの扉――。

 日向の靴が扉に当たり、コツンと小さな音を立てる。


 目の前の人物はその音を聞き逃さなかった。

 バッとマントをひるがえし、日向にその顔を見せる。

 その正体は――。


「ゲリラ将軍――」


 ゲリラ将軍は目を紅く光らせながら、じりじりと日向に近づいていく。


「いや、来ないで――」


 日向の目から静かに涙がこぼれ落ちた。

 自分も白く染められてしまうという恐怖に怯えながら――。


『泣かないよ――。あなたなんか怖くなんかない!』


 ふと、サニータの力強いせりふが日向の頭をよぎった。


 ――そうだ、サニータはどんなときでも笑っていた。

 ――でも、目の前の怪物が怖くて笑えない。

 ――だから、どうかわたしに笑顔を与えてください。


『全く、仕方ない子よね――』


 聞こえてきた声と同時に日向は光に包まれた。

 そして、その中から出てきたのは――。


大地だいちらすオレンジの太陽。笑顔の騎士、クールサン!」


 オレンジ色のコスチュームに身を包んだ日向であった――。

谷山たにやま 真実まみ

日向のクラスメート。


宮野みやの 悠佳ゆうか

日向のクラスメート。


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