#2 夢の騎士、クールスター誕生!(前編)
朱雀町から少し離れた所にあるテーマパーク、四季の国。
まだ開演前のパーク内ではクルーが忙しなく走っている。
そのような中、1人のご老人は呑気にロボットの整備をしていた――。
「ご老人、それは何だ?」
「あぁすまんすまん。すぐに手伝うから――」
ご老人が振り向くと、そこにいたのは黒基調の服を着た青年がだった。
サングラスをかけているところを見ると誰かのSPだろうか――。
「兄ちゃん、まだ開園前だよ?勝手に入ったら困るねぇ」
「俺はこれは何だと聞いているのだが――」
「あぁこれかい?これはシャボン丸2号だよ」
ご老人はリモコンを手にすると、そのロボットを動かしてみせた。
その動きはすごく鈍く、おんぼろ感が半端ない。
次にご老人はロボットの手から水を出してみせた。
ミストのような柔らかい水で空気をほどよく湿らせる。
しかし、全くシャボンとは無縁の存在だった――。
青年も無表情でロボットを見ている。
「ちゃんと1号もいるんじゃよ?ただ、夏の暑さをしのぐには2号なんじゃ」
ご老人がロボットの足元を指さす。
見ると、ロボットの足元は水で濡れていた。
濡れた部分が黒く塗り染められているようにも見えた――。
「地面を濡らして暑さを凌ぐ。昔ながらの考えじゃよ」
「へぇ?それは素晴らしい――」
青年は胸元から真っ黒い鍵を取り出し、こう唱えた。
「いでよ、モノクローム!!」
そして、その鍵をシャボン丸2号に差し込むのであった。
☆
同じ日の午後――。
氷柱中学校ではちょうど授業が終わったときだった。
「星奈ちゃん、今日もお疲れ様。突然だけど、この後空いてる?」
「千尋ちゃん、お疲れ様。空いてるけどどうしたの?」
「実はね、これから晶子ちゃんがカフェ・チェリーブロッサムに連れていってくれるんだって!」
「えっ本当に?!」
「お友達になった記念にと思って――」
星奈は氷柱中学校に入学して寺島千尋と鈴村晶子と友達になった。
その晶子は朱雀町でパンケーキが美味しいと評判のカフェ・チェリーブロッサムの娘とのこと――。
数か月前まではごく普通のお店だったのだが、最近雑誌で紹介されたことにより今では満席になるほどの有名なお店となった。
「今日は特別にお父さんが千尋ちゃんと星奈ちゃんのために席を用意してくれてるんだ。早く行こう!」
3人は楽しく会話をしながら学校を出る。
いつも通り校門にいる先生に挨拶をして、いつも通り商店街へ足を進めていく。
「ところでさ、今日の部活動紹介でのチアリーディング部の演技見た?!あれ、めっちゃすごくなかった?!」
「うんうん!両手にポンポン持ってるのにこうフワッと舞う感じがすごいよね!」
「星奈ちゃんと千尋ちゃんはチアリーディング部に決定かしら?」
「いやぁわたしには無理だよぉ――」
星奈は薄ら笑いをしながら頭をかく。
ふと、途中で通りかかった公園に目を向けるといつも通りたくさんの子供たちが遊んでいた。
――ひぃちゃんとつきみんいないかな?
「――ちゃん?星奈ちゃん?」
「あっごめん。何の話だっけ?」
「こら、人の話はちゃんと聞く。それで、星奈ちゃんの夢は?」
「ごめんごめん。そう言う千尋ちゃんの夢は?」
「わたしは今やってる空手で世界一になることかな?晶子ちゃんは?」
「わたしの夢はお父さんのお店を継ぐことよ」
2人とも思った以上に夢がでかかった――。
もちろん、星奈にもちゃんと夢はある。
しかし、2人に比べればちっぽけな夢である。
「で、星奈ちゃんの夢は?」
「えっと――」
話し込んでいるうちにいつの間にか商店街の中に入っていた。
コロッケを揚げる音と香りが五感をくすぐる。
そのため星奈のお腹が鳴ったのだが、商店街の賑わいに掻き消されてしまい2人の耳には聞こえないらしい。
だが、カフェ・チェリーブロッサムまでは後もう少し――。
ここは我慢である。
しかし、突如ドーンという音と共に砂ぼこりが商店街の人々を襲った。
突然の砂ぼこりに咳き込む人々――。
やがて、砂ぼこりが晴れるとそこにたたずんでいたのはお腹の部分に鍵穴が描かれた大きなロボットだった。
「お母さん、巨大ロボだよ!」
近くの少年の言う通り、見た目は世界の平和を守る巨大ロボ。
しかし、どこから誰が何のためにこんなところへ持ってきたのだろうか――。
巨大ロボは腕を水平に挙げると突如、黒いミストを出した。
ミストは濡らした地面を徐々に黒く染めあげていった――。
それだけでなく、濡らした街頭や壁も黒く染めていった――。
それでも飽き足らず、ミストにかかった人々も黒く染めていった――。
この巨大ロボは世界の平和を守るのではなく、世界の平和を壊す存在であると理解した人々は悲鳴をあげながらその巨大ロボから逃げるように離れていった。
「千尋ちゃん、晶子ちゃん、早く逃げよう!」
星奈は2人の手を引っ張って必死に逃げた。
しかし、時すでに遅し――。
「きゃあ!」
晶子がつまずいて転んでしまう。
その足を見ると、黒く染まっていた。
「いやぁぁぁ!」
その足から徐々に胴体の方まで黒く染まっていく晶子。
「晶子ちゃん!」
星奈はすぐに晶子のもとへと駆け寄ったが、その足もピタッと動かなくなった。
まるで、誰かに足を掴まれた感じがするかのように――。
恐る恐る足を見ると、晶子と同じく黒く染まっていた。
気がつくと、先ほどの黒いミストが商店街中に撒き散っていた。
悲鳴をあげる人々だったが徐々に黒く染まっていき、やがて静かになった――。
「星奈ちゃん!晶子ちゃん!」
千尋の叫び声が聞こえる。
足が動かないので、星奈は首だけを後ろに向ける。
そこにいたのは完全に黒く染まりきって動かなくなった千尋だった――。
顔を戻すと、晶子も既に黒く染まっていた。
「何これ――。怖いよ――」
星奈は手で顔を覆い隠す――。
しかし、急いで顔からその手を離す。
見ると、手も黒く染まっていた。
足から、手から、そして触れた顔の部分から徐々に黒く染まっていき、星奈もまた完全に黒くなって動かなくなった――。
商店街から色が消え去り、人々の声も完全に聞こえなくなった――。
それを確認したと、巨大ロボは動き出した。
どうやら、商店街にもう用はないようだ。
しかし突如、巨大ロボの背後を水色の光が照らした。
見ると、そこには水色のコスチュームを来た少女が1人――。
「数多に瞬く水色の夢。夢の騎士、クールスター!」
果たして、彼女の正体は如何に――。
寺島 千尋
星奈のクラスメート。空手をしている元気な女の子。
鈴村 晶子
星奈のクラスメート。人気店であるカフェ・チェリーブロッサムの看板娘。