#30 捕らわれたサン
サンヨーヨーは留まることを知らないかのようにぐいぐい伸びていった。
モノクロームまで後少し――。
カランカラン――。
しかし、モノクロームの手前で突如サンヨーヨーの動きは止まった。
そして、そのままサンヨーヨーは力なく地面に落ちていった。
残念ながら、笑顔の騎士が黒く染められるのが先だったらしい。
モノクロームに狙いを定めたその姿のまま、黒い像のように固まってしまった――。
「やったー!ベガちゃん、大勝利!!」
よほど笑顔の騎士を捕らえられたことが嬉しかったのか、ベガは大きくそう叫んだ。
「あたしの作戦ってば完璧だったでしょ?もう誉め称えてくれちゃってもいいんだから!」
「はいはい。おめでとう――」
先ほどまでサンヨーヨーに絡まっていたモノクロームと共に、デネブもやって来た。
ベガとは違って、特に嬉しくも何もなさそうである。
「適当にモノクロームをちらつかせてひっかかる笑顔の騎士もそこそこ知能低いんだろうけど、これを立派な作戦と言い張るベガもそこそこ知能低いよね」
「今日だけはその言葉も誉め言葉として受け取っといてあげる。さてと、じゃあさっさとあたしたちの僕にしちゃいましょうか」
そういうと、ベガはあの白い鍵を取り出した。
「さぁおいで!モノクローム!」
鍵を笑顔の騎士に向けてさそうとしたときだった。
「待て――」
その手を誰かが止めてきた。
アルタイルだった。
「何よ?あっもしかして、あんたも僕がほしいわけ?大丈夫よ。独り占めなんか最初からするつもりはないから――」
「いや、そうじゃない。こいつはこのまま連れて帰る」
「――はぁ?」
アルタイルの提案に対し、明らかに不満そうな声を出すベガ。
「クールナイツに対して真に復讐を果たしたいのはケルベロス様だ。俺らが手を出さずにあの方のやりたいようにやらせてあげるべきだろう」
「バッカじゃないの?これはあたしの作戦のおかげで捕まえた獲物よ?あんたにどうこう言う権利なんてないんだけど?」
「しかし、ここはケルベロス様に任せるべきでは――」
「あっ分かった。また下手な行動をすればケルベロスに何されるか分からないからビビってるんでしょ?」
「いや、そうではないが――」
「あんたのことなんて知ったこっちゃないわよ。とりあえず、ケルベロスの言う通り捕まえたんだから身体を痛め付けられる心配はないでしょうよ」
アルタイルの提案を半ば無視したベガは再び白い鍵を笑顔の騎士に向けてさそうとした、その時だった。
ふと、声が聞こえたような気がした。
デネブがまたボソボソと文句を言っているのだと思った。
しかし、そのデネブは顔をキョロキョロとさせて周りを警戒している。
では、第三者がここにいるのだろうか――。
そう思ったベガも周りを見渡してみたが、誰の姿も見当たらなかった。
やはり、空耳だったのだろうか――。
「ムーン プレイ・クレセント!」
しかし、今度はしっかりと聞こえた。
これは祈りの騎士の声である。
だが、気付くのが少し遅すぎた。
紫色の光はすでにこちらへと近づいてきていたのだから――。




