#28 推しを自慢
とうとう楽しい夏休みが終わってしまった――。
長い長い夏休みが終わってしまった――。
しかし、セミの中では夏休みは終わっていないのか今もなお鳴き喚いている。
正直、この憂鬱な気分の中では非常に耳障りなのだが――。
さて、授業を終えた日向は真実と悠佳とともに学校の多目的室で宿題をやっていた。
今帰ってもただ暑いだけだし、涼しくなってから帰ろうということになったからである。
しかし、この3人が集まると結局は乙女怪盗団の話になって1日が終わる。
今もノートや教科書を広げているが、話の内容はそれぞれ推しのどこがいいかということである。
「クラウディアはハープを奏でて敵をリラックスさせるのがいいよね。真実はレーナのどこが好き?」
「そりゃムチで敵をバシバシやるところでしょ!わたしには出来ないことを簡単にやってのけるレーナはやっぱりカッコいい!」
「分かるわぁ、その気持ち――。あたしもサニータを真似してみたけどやっぱり相手の脚にヨーヨー巻きつけるとか難しいよね――」
「日向、誰の脚にヨーヨー巻きつけたの?」
――あっ。
興奮してついケイローンとの戦いのときのことを口走ってしまったが、あれは笑顔の騎士としてのときの話だ。
ゆえに、秘密にしておかなければならないことである。
これは絶対に後でレレに怒られるやつだ。
「えっと、夢の中で敵の脚にヨーヨーを巻きつけたんだけど、やっぱりうまくいかないよね――」
「いやいや、夢の中ならなおさらやりたい放題でしょ?」
真実からの鋭い突っ込みにえへへと笑ってごまかす日向――。
「日向、何か隠してない?」
それでも怪しそうに目を見つめてくる真実から目を逸らす日向。
その視線が窓に向いたときだった。
何かが視界に入ってきた。
遠くてよく見えないのだが、ふわふわと何かが浮かんでいるのだけは分かった。
「何あれ?」
「何々?何かある?」
真実と悠佳も外を覗いてくれたのだが、やはり何なのかは分からなかった。
白いし、ただの雲だろうとは思ったが、それにしてはやけに動き回るような――。
もしかして、宇宙からのお客様か――。
よくよく目を凝らすと、4本足で何かがピコンと伸びているのが分かった。
「ドローンで何かを撮影してるのかな?」
「にしても、あのアンテナだっさ!飛ばすならもっとカッコいいドローン飛ばしてよ――」
ガタッ!!
音の鳴る方へ目を向けると、日向が鬼の形相で立ち上がっていた。
「どうしたの、日向?」
「えっと、あの――。ママにお買い物を頼まれていたんだった!ごめんね、帰るね!」
日向は荒々しく教科書やノートをしまうと、すぐに多目的室から出ていってしまった。
「今日の日向変なの。そんなことよりさ、昨日の放送でのレーナのムチ使いは最高だったと思うんだわ!」
「クラウディアのハープだって、いつも以上に音色がきれいだったよ!」
あなたたちは早く宿題を片付けなさい――。
☆
校庭へと飛び出した日向は周りを見渡した。
すると、部屋で見かけたそれはちょうど頭上に浮かんでいた。
ここまで来るとさすがによく見える。
宇宙船だと思っていた白い機体は、なんと馬の身体だった。
そして、その馬に誰かが乗っていた。
アンテナのように思えていたものは、どうやら剣らしい。
太陽の光に当たってキラキラと輝いていた。
「レレ、あいつは――」
「えぇ、モノクロームよ」
今のところ、ケイローンのときみたいに周りに危害を加えようとはしていない。
しかし、放っておくといつまた暴れるか分からない。
日向はそっと草影に隠れ、周りに誰もいないことを確認すると太陽のコンパクトを取り出した。
「いくよ、レレ!」
「もちろんよ!」
レレの身体が温かなオレンジ色に包まれてゆく――。
「どんな色が好きなのよ?」
「オレンジが好き――。ぬくもりを感じる――。だから、オレンジが好き!」
やがて、日向もオレンジ色の光に包まれて笑顔の騎士へと変身した――。




