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虹色騎士 クールナイツ ~cool knight~  作者: 彼方 菜綾
♮5 クールナイツと大切な仲間
202/208

♯200 仏の顔も三度まで

 鏡から出たその先は雑木林の中だった。

 だが、その葉はすべて枯れ落ちていた。

 それに加えて誰のいたずらなのか樹のすべてが白く塗りつぶされていた。

 地面に落ちた葉や枝の全ても白く塗りつぶされていた――。


 みゆきはそのうちの樹のひとつに触れてみた。


 ――!!


 その樹は氷で出来ているのかと思うほどに冷たかった――。


 みゆきは空を見上げてみる。

 空には分厚い灰色の雲があったが、それ以外は何も見えなかった。


 だが、それはここ一帯だけの話――。

 ここから遠くの空には雲がひとつもなく、かつ空の色が黒かった。

 その中で白い月が不気味に光り輝いている。

 つまり、あのミラーハウスの鏡はセピア・キングダムに繋がっていたということ――。


 とても嫌な予感が的中した。

 それとともに、再び胸騒ぎがみゆきを襲った。


 ふと、カサカサという音が耳に届いた。


「誰?!」


 みゆきは音のした方を振り返る。

 すると、何かが枯れ落ちた葉の上を走り去っていくのが見えた。


「待って!!」


 みゆきもその後を走って追いかけた。

 そしてしばらく走ると、やがて雑木林を抜けて開けた場所へと出てきてしまった。


「――っ!!」


 そこで目にした光景に、みゆきは言葉を失った――。


「あら。今頃現れましたの?」


 そう言ってきたのは念入りに髪の毛をいじるアペスだった。


「アペス。あんた、ここで何をしてるの――」

「何って。見れば分かるでしょ。枝毛の手入れ」

「アペス。君、わかっててわざとそう答えてるでしょ?」


 そう言ってきたのは、ひどくニヤついているアピスだった。

 

 もちろん、アピスの言っていることは正しい。

 今みゆきが知りたいことはアペスが何をしているのかということではない。

 目の前で、なぜクールナイツの6人がそれぞれ十字架に張り付けにされているのかということだった――。


「何で――。何でこんなことを――」

「よくやったな、ケルベロス」


 そう言って、誰かが肩に手を置いてきた。

 知っている――。

 この手の置き方はフェリスである。


 みゆきはそのフェリスの手を掴むとすぐにこう言った。


「お願い、今すぐみんなを解放して――」


 癒しの騎士(クールクローバー)の髪の毛は真っ白に染まっていた。

 せっかくの深緑の髪色が台無しである。


 夢の騎士(クールスター)笑顔の騎士(クールサン)祈りの騎士(クールムーン)の脚も白く染まっていた。


 希望の騎士(クールダイヤ)も右目部分が白く染まっていた。


 それに比べると守護の騎士(クールスペード)は白く染まっているところが少ないように見えた。

 だけど、なぜかこめかみ付近から血を流していた。


 そして、その全員の唇が紫色をしていた――。


 さっき白く塗り染められた樹を触ったとき、すごく冷たかったことを覚えている。

 あの白い何かのせいで、きっと体温が奪われていっているのだ。

 このままだと彼らは――。


「使命を果たした後ならば解放してやらんこともないが――」

「それだったら手遅れになるでしょ?!いいから早くみんなを解放してよ!!」


 みゆき、いやケルベロスのその言葉がひどく気に入らなかったのだろう。

 フェリスは勢いよくケルベロスを突き飛ばした。

 そのせいでケルベロスは体制を崩して大きく尻もちをついた。


「貴様、俺たちの使命を忘れたか?!」

「忘れるわけないじゃない!!」

「ならばこの状況に納得はいくだろ!!」

「いくわけないじゃない!!だいたいわたしたちの目的はクールナイツを倒すことでしょ?でも今の彼女たちはクールナイツに変身していない。そんな無抵抗な人間を拘束するなんて、こんなの弱いものいじめと一緒だよ!!」

「ねぇ2人とも黙ってくれない?頭に響くんだけど?」


 アピスのその言葉が気に入らなかったのか、フェリスは聞こえるように大きく舌打ちをした。


 ケルベロスはそんなフェリスをじっとにらみつけたまま言葉を続けた。


「そもそも、何でわたしがクールナイツと一緒に四季の国にいることをあんたたちが知ってるの?」

「何を寝ぼけたことを言っているんだ?貴様がクールナイツをおびき出して、それを俺たちが捕まえるという算段だろ」

「はぁ?それ、誰からの指示よ?」

「シスターからだけど?」


 ――!!


 アピスのその言葉に、ケルベロスの心臓が大きく高鳴った。


 シスターは癒しの騎士(クールクローバー)守護の騎士(クールスペード)の仲直りの場を設けるために四季の国を紹介してくれた。

 1人では無理でも、みんなの協力があれば大丈夫と背中を押してくれた。

 だが、もしかしてその本当の目的は――。


「あれ、もしかして君はシスターから何も聞かされてなかったの?」

「違う――。違うよ――。わたしは今日、癒しの騎士(クールクローバー)守護の騎士(クールスペード)を仲直りさせるためにクールナイツを集めただけなの――。だから、きっと作戦決行の日は今日ではないはずなの――」


 そうだ――。

 ケルベロスとの話の中でこの計画を思いついたとしても、決行日は今日ではないはず――。

 ケルベロスを利用してクールナイツを倒そうなんて、あのシスターが思うはずがない――。

 美味しいお茶やお菓子を出してくれたあの心優しいシスターがケルベロスを利用するなんてことはないはず――。


「だからお願い、今日は帰って!!」

「――そうか。ならば仕方ないか」

「おーい、フェリス。勝手に話を進めるのはやめようか?」


 アピスを無視してフェリスは続けた。


「――いつだ?」

「えっ?」

「次にいつ、クールナイツを集められる?」

「えっと――。きっとみんな、予定があるからすぐには無理かもしれない。でも、必ず集めるから――」

「バカだな、貴様は――。今ここで敵だと明らかになったおまえの言葉をこいつらが聞き入れるとでも思っているのか?」


 フェリスのその言葉にケルベロスは再び言葉を失った。


「ケルベロス。今一度確認するが、貴様に課せられた使命は何だ?」

「やめて――」

「答えろ、ケルベロス。俺たちは何を目的としてクールナイツと接触した?」

「やめて――」

「答えろケルベロス!!」

「その名前で呼ばないで!!お願いだから、みんなの前ではその名前で呼ばないでよ――」


 今の今まで、クールナイツには自分の正体を隠して接触してきた。

 でもきっとみんなも薄々、本室もとむろみゆきの正体に気づいているのだろうなとは思っていた。

 それでも、改めてクールナイツの前で正体をバラされるとひどく胸が苦しくなった。

 そして、とめどなく涙が溢れ出た。


「ねぇケルベロス――」


 ふと、アペスが耳元で囁いてきた。


 ――!!


 かと思えばいきなり前髪を掴まれた挙げ句、顔を覗き込まれた。


「あなた、どうしてそこまでしてクールナイツのいのちを守ろうとするの?」

「――は?別に守ってないし。さっきから言ってるじゃん。わたしたちの使命は――」

「それはただの言い訳でしょう?いい加減、本当のことを言いなさいよ?クールナイツを助けたい本当の理由を――」

「本当の、理由?」


 アペスにそう言われて、ケルベロスは自分の心に問いかけた。

 なぜ、クールナイツのいのちを守りたいのかと――。

 だが、何も答えは浮かばなかった――。


「わたしたちの使命はクールナイツを倒すこと。それ以外に理由なんてないから――」


 ケルベロスはアペスの手を払い除けた。


 そんなケルベロスの態度が気に入らなかったのだろう。

 アペスは聞こえるように舌打ちをした。


「あぁなるほど。とりあえずケルベロスの言い分は分かったよ。ということで、スピリット・アニマルたち。早く出てこないとご主人様のいのちが危ないよ」

「ちょっと!!人の話を聞いてた?!」

「うん、聞いてたよ」

「だったら――」

「使命を果たすためならば、やっぱり犠牲は必要だよね?」


 アピスの顔は非常にニヤついていた。


「あぁそういうこと――」


 そう言うアペスの顔も――。


 その姿に、ケルベロスは再び言葉を失った。

 きっとこの2人はケルベロスの想いなんて理解していない。

 スピリット・アニマルの回収のために犠牲が必要というのも嘘――。

 たとえ回収出来たとしても、確実にここで彼女たちの命も奪うつもりだ――。


 ケルベロスはフェリスへと視線を向けた。

 フェリスは無表情で、ただ彼女たちを見据えていた。


「ねぇフェリス。モノクロームは今どこにいるの?」


 アピスとアペスに聞いても絶対に答えてはくれないだろう。

 でも、フェリスなら何かは答えてくれると思った。


「ねぇ教えて――。わたしが鍵を壊しに行くから――」


 だがフェリスはケルベロスを見ることもせず、だんまりを決め込んでいる。


「フェリス!お願いだから教えてよ!!」

「うるさい!!」


 フェリスが声を張り上げたと同時に前髪を掴まれた。

 そして、気がつけば身体が横倒しになっていた――。


「あ゛ぁぁぁぁぁ!!」


 その直後、頭に強烈な痛みが走った。

 その痛みを少しでも和らげようとして自然と呼吸が激しくなった――。


「仏の顔も三度まで――。さすがの貴様でも知っているだろう?」

「あ゛――。あ゛ぁ――」


 痛みが激しくてうまく言葉を発することが出来ない。


――助けなきゃ。

――ジャナイトミンナノイノチガ危ナイ。


 ケルベロスは必死で身体を起こす。

 その時、頭から何かが頬を伝い、やがて顎から滴り落ちた。

 滴り落ちたそれは赤かった――。


 アピスが何かを言っている。

 だが、痛みが激しくて言葉の内容が全く理解できない。


――助けなキャ。

――ジャナイトミンナノイノチヲ守リキレナイ。


 ケルベロスは必死の思いで立ち上がった。

 しかし一歩踏み出した瞬間に体勢を崩してしまい、力尽きたかのようにそのまま倒れてしまった。


 アペスが何かを言っている。

 だが、痛みが激しくて言葉の内容が全く理解できない。


――助けナキャ。

――ジャナイトミンナノイノチガ奪ワレル。


 ふと、足音が遠のいていくのが聞こえてきた。


「待って――」


 ケルベロスは必死で手を伸ばす。

 その手がフェリスに届くはずもないのに――。


「放っておけ。こいつらのいのちになんて微塵の価値もないんだ」


 なぜだか、フェリスのその言葉だけははっきりと理解できた――。


「――助ケナキャ。ツイデニ、アイツモ排除シヨウ――」

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