♯199 ミラーハウスで独りぼっち
クールナイツ全員に置き去りにされた――。
そりゃそうだ。
本室みゆきはクールナイツの敵なのだから――。
まぁぶっちゃけ、みつ葉と護琉、望夢はそうするだろうなとは思っていた。
だが、まさか星奈、日向、月美にも置き去りにされるとは思ってもいなかった――。
みゆきは瞼から零れ落ちそうになる涙を堪えて、1人歩き始めた。
すれ違う人たちに不審な目で見られたが、そんなことも気にせずにただただ歩き続けた。
そして、辿り着いたのは入り口だった。
一緒に楽しむ者がいないのならばこんなアトラクションなどに用はない――。
そう思って、ミラーハウスを出ようとしたときだった――。
「ちょっと、ここは入り口よ」
クルーに声をかけられた。
まぁ当然のことであろう。
みゆきはミラーハウスから出るために事情を話した。
しかし、クルーから驚くべき言葉が出てきた。
「入り口から出ていった人は1人もいないよ?」
――?!
みゆきは一瞬、言葉を失った。
しかし、続けてクルーに問いかける。
「水色の髪色をしていて、肩に流れるように髪をくくっている女の子がここを通りませんでしたか?」
クルーは首を横に振る。
「茶髪でポニーテールの女の子は?紫の髪で耳の少し上ぐらいで髪を結っている女の子は通りませんでしたか?」
クルーはまたもや首を横に振る。
「深緑のおかっぱの女の子は?金髪で前髪をピンで留めてる男の子、銀髪で髪を降ろしている男の子は?!」
やはり、クルーは首を横に振った。
「嘘――。絶対に嘘!みんな、わたしを置いてここから出ていったはずなの!!」
「はいはい。とりあえず、迷子はあんた。早く友だちと合流しな」
クルーに背中を押され、みゆきはミラーハウスの中へ押し戻されてしまった。
そんなクルーの塩対応に少しだけ腹が立った。
不服そうなその表情が鏡に写っている。
前後左右、上下にそれはそれはばっちりと――。
それを目にしたみゆきは突如、とてつもない胸騒ぎに襲われた。
そして、今度はミラーハウスの中を走りながら進んでいった。
「こら!ミラーハウスでは走らない!!」
クルーの忠告を無視して、みゆきはミラーハウスを駆け抜けていった。
鏡に手を添えて、足を止めることなくひたすら走った。
途中、すれ違った人とぶつかってしまったが――。
「ごめんなさい!!」
みゆきは深々と頭を下げると、再び走った。
そしてやっとのことで出口へと辿り着くと、みゆきは出口手前にいたクルーに改めて問いかけた。
水色の髪色をしていて、肩に流れるように髪をくくっている女の子が通らなかったか――。
茶髪でポニーテールの女の子が通らなかったか――。
紫の髪で耳の少し上ぐらいで髪を結っている女の子が通らなかったか――。
深緑のおかっぱの女の子が通らなかったか――。
金髪で前髪をピンで留めてる男の子が通らなかったか――。
銀髪で髪を降ろしている男の子が通らなかったか――。
そのすべての問いにクルーは首を横に振った。
これで確信を得たみゆきは、せっかく辿り着いた出口を引き返した。
そして、ある程度進んだところで周りに誰もいないことを確認して鏡へと手を添えた。
このミラーハウスへ入ったとき、確かに7人揃って入った。
だが、途中で月美が姿を消した。
その月美を探しに行くと言った星奈と日向も姿を消した。
その星奈と日向を探しに行くと言った望夢と、その望夢についていった護琉も姿を消した。
そして、ずっとそばにいたはずのみつ葉も姿を消した。
しかし、彼女たちはこのミラーハウスから一歩も外に出ていないことが分かった。
ということは――。
「我が名はケルベロス。鏡よ鏡、我をクールナイツのいるところへ誘え――」
みゆきがそう唱えると、みゆきの身体がゆっくりと鏡の中へと溶け込んでいった。
やがて、みゆきもこのミラーハウスから姿を消したのだった――。




