♯182 高鳴る鼓動
聞いてない――。
プール内にアピスとフェリス、それに守護の騎士と希望の騎士もいるなんて聞いていない――。
掃除当番はクラスから4人選ばれることになっているが、なぜその4人の中に彼らが仲良く選ばれているのだ――。
もしかして、誰かがケルベロスたちとクールナイツをひとつの場所に集めるためにくじをいじったのだろうか――。
だとしたら、癒しの騎士がケルベロスと一緒に当たりを引き当てたことにも納得がいくが――。
しかし、よほどのことがない限りセピア・キングダム以外の場所でアピスとフェリスとは会話を交えたくない。
だから、姿を見かけても無視してその場を立ち去ろうとした。
だが、あの言葉が耳に届いてしまった――。
『転校してきてプールの授業も受けていないのに掃除をさせられるとか真っ平ごめんだからね――』
もちろん、ケルベロスだってプール掃除に関しては不満を抱いている。
この学校でプールの授業も受けていないのに、なぜ掃除をせねばならないのかと――。
しかし、これはくじ引きによって公平に決められた結果。
なので、文句を言うことは出来ない。
だから、ケルベロスはおとなしくプール掃除に参加した。
だというのに、アピスはそれを理由に平気でサボろうとしていた。
その態度に非常に腹が立った――。
そして気がつけば、手に持っていたバケツの中の水をアピスめがけてかけていた。
「――き?」
当然、アピスはケルベロスに噛み付いてきた。
だが、それよりも守護の騎士と希望の騎士の視線が気になった。
2人は目を丸くしてこちらを見つめていた。
それに伴い、ケルベロスの心臓は大きく波打った。
まるで、心臓が口から飛び出そうなほどに――。
こんなのすぐに治まるだろうと思っていたのだが、逆にどんどんと鼓動を早めて終いには呼吸さえ苦しくなった――。
気がつけば、バケツ内の水すべてをアピスにぶっかけていた――。
「――ゆき?」
癒しの騎士の手を引いて逃げるようにその場を去ってしまったが、帰ったら絶対にこのことについて絡まれる――。
いや、アピスのすぐそばにはフェリスがいた。
フェリスはアピスに非があることを理解していたので、もしかしたら丸く納めてくれるはず――。
「みゆき!!」
癒しの騎士から大声で名前を呼ばれて、やっと我に返ったケルベロス。
「――どこまで行くの?」
癒しの騎士に指摘されたケルベロスは周りを見渡す。
そこはプール内ではなく全然知らない場所だった。
ここは本当に校内かと思うほどに――。
「顔も真っ赤だけど大丈夫?もしかして、気分でも悪いの?」
「いや、大丈夫――」
ケルベロスはさりげなく頬に触れてみる。
その頬は燃えるように熱かった――。
「もしかして、お兄ちゃんとののに見つめられてドキッとしちゃった?」
「は?そんなわけないじゃん!これはえーっと、悠一がみつ葉を嫌らしい目で見てたから怒ってるだけであって――」
なぜ癒しの騎士に心が読まれた――。
あの女性から癒しの騎士にそんな能力があるなどとは聞いてはいない。
とりあえず、ここは適当にやり過ごさなければ――。
「ねぇみゆき、ひとつ、聞いてもいいかな?」
「――何?」
癒しの騎士に名前を呼ばれてケルベロスはゴクリとツバを飲んだ。
「今週の日曜日、空いてる?」
「――えっ?」
てっきり癒しの騎士からいろいろと問い詰められるかと思ったケルベロスは拍子抜けした。
「ねぇ空いてるの?空いてないの?」
「特に予定はなかったと思うけど――」
「じゃあ、パンケーキ食べに行かない?」
「――は?」
「はい、きーまり!!あっあたし、お水汲んでくるね。みゆきはここで待ってて」
「えっちょっと?!みつ葉!!」
癒しの騎士はケルベロスからバケツを奪い取ると、駆け足でどこかへと消えてしまった。
1人取り残されたケルベロスは大きくため息をついた。
なんか強引に約束を交わされてしまった――。
まぁそのおかげで修羅場を回避できたのだが――。
ケルベロスはポケットから白色の鍵を取り出した。
そして、周りを見渡してみたが手軽にモノクロームに出来そうなものなど見つかるはずがなかった――。
ここから移動すれば何かしらは見つかるのかもしれないが、下手に動けば癒しの騎士に不審に思われる恐れがある。
せっかくここまで絆を深めたのだ。
溝など作りたくはない――。
諦めたケルベロスはおとなしく癒しの騎士の帰りを待つことにした。
が、その時――。
まるで爆発音のような大きな音が辺り一面に響き渡った。
――!!
心臓が大きく跳ね上がった。
それと同時にひどい頭痛がケルベロスを襲った。
「あ゛、あぁ――」
ケルベロスは頭を抱えて、その場へと倒れ込んだ。
爆発音の正体は雷だった。
しかし、空は雲ひとつない晴天。
ということは、この雷は意図的に作られたものなのだろう。
とりあえず、この場に留まり続ければいずれ頭が割れてしまう。
ケルベロスはゆっくりと立ち上がった。
しかし絶えず鳴り響く雷鳴のせいで頭が疼き、再びその場へ倒れ込んでしまった。
やがて、生徒たちの悲鳴が耳に入ってきた――。
その時ふと、水を汲みに行くとこの場を去った癒しの騎士のことが頭をよぎった。
敵であるはずの癒しの騎士のことが――。




