♯180 当たりくじこそ真のハズレくじ
とある日の放課後――。
「なぁフェリス――」
アピスは水が抜かれたプール内でブラシを片手にフェリスへと問いかける。
しかし、フェリスはブラシでプール内の床を掃除するのに必死なのか反応がない。
「なぁ隆――」
「何だ?」
「うーわ、めんどくさ――」
「どこで誰が聞いているかわからないんだ。気を抜くな。それよりもおまえも手を動かせ」
アピスは大きくため息をつくと、面倒くさそうにブラシを動かした。
「それで、何か聞きたいことがあるから話しかけたんだろ?」
「――何で俺たちはこんなところで掃除してるの?」
「くじ引きで当たりを引いたのだから仕方がないだろう」
これは遡ること数日前――。
クラス内では、とあるくじ引き大会が開かれた。
アピスとフェリス、そして他2人はそのくじ引きで見事当たりを引き当てたのだった。
しかし、その当たりくじこそ真のハズレくじ――。
そのくじ引きはプール掃除の当番を決めるためのものだったのだ。
故に、アピスとフェリスはこんなところで掃除をしているわけである。
「こんなことしてる暇があるならもっと他にすることあるじゃん」
「気に食わないかもしれないが、今は下手に動くな。規則に従え」
「――ねぇ、モノクロームを使って掃除させない?」
「あのバカどもがまともに掃除出来るはずがないだろ。いいから口より手を動かせ」
アピスは大きくため息をつくと、再びブラシを動かした。
当たりを引いたとき、ハズレを引いたクラスメイト全員が喜んだ。
正直、皆がアピスを祝福しているのだと思った。
だが、実際はただ掃除当番を免れて喜んでいただけ――。
腹が立つのでハズレを引いたクラスメイト全員をモノクロームに変えてやろうかと思ったが、もちろんフェリスに止められた。
しかし、この掃除はいつになったら終わるのだろうか――。
担任の先生の話ではきれいになったらということだったが、一向にきれいになる気配がない。
アピスはチラッとフェリスの方を見る。
フェリスはバカ正直にプール内を必死で磨いている。
だから、おそらく周りが見えていない――。
アピスはそれを確認すると、ブラシを放り捨ててプールサイドの近くで同じく掃除をする2人組のところへ向かった。
「ねぇこんなことして楽しい?」
アピスが高橋悠一として話しかけたのは守護の騎士である南風護琉と希望の騎士である西表望夢。
実は、この2人もアピスとフェリスと同様に当たりを引き当てていたのだった――。
「楽しいわけがないだろ。だから、さっさとおまえも動け」
「俺1人がサボったところで何も変わらないよ――」
掃除当番はそれぞれのクラスから4人選ばれることになっているらしい。
そして、各学年にクラスは3つ――。
故に、このプール内には36人の生徒がいることになる。
そのうちの1人がサボったって支障はないと考えるのがアピスである。
それに他の生徒も手を止めて話し込んでいる。
まぁそのほとんどがなぜか守護の騎士と希望の騎士を見て目を輝かせているのだが――。
そんな中で必死に掃除をするほうがどうかと思われる。
「君が話しかけてくることによって僕たちの手が止まる。サボるのならば勝手にサボってくれないか?」
「――そうさせてもらうよ。転校してきてプールの授業も受けていないのに掃除をさせられるとか真っ平ごめんだからね――」
と言い終えたところでアピスめがけて水がとんできた。
水がとんできた位置はおそらくプールサイド。
アピスはそこに視線を向ける。
すると、ケルベロスとついでに癒しの騎士が視界に入ってきた。
「何するの?冷たいんだけど?」
「水なんだから当たり前でしょ?」
「何?嫌がらせでもしにきたの?」
ふと、アピスは癒しの騎士へと視線を向けた。
その癒しの騎士の表情は非常に強張っていた。
おそらく、アピスが平気で仲間に近づいている姿が受け入れられないのだろう。
しかし、なんていい表情だろう。
それを見て、もっと癒しの騎士をいじめたいとさえ思った――。
そんなことを考えていたら、今度は大量の水がアピスめがけてかけられた。
ケルベロスがバケツの水を故意にひっくり返したのだった。
「おまえ――。何すんだよ?!」
そのままケルベロスに勢いよく殴りかかろうとしたのだが、誰かに首根っこを掴まれて止められてしまった。
フェリスだった。
「離せ!あいつに1発入れなきゃ気が済まない!!」
「事を荒げるな。そもそも、掃除をサボろうとするおまえが悪い。だが、みゆきもみゆきでさすがにやりすきだ。悠一に謝れ」
「――知らない。行こう、みつ葉」
ケルベロスが謝ることはなく、癒しの騎士の手を引いてそのまま去ってしまった。
その態度にまた腹が立った――。
「待てよ!――くしゅん!!」
季節は冬を目前に控えた秋。
故に、それなりに気温は高くはない。
そんな中でアピスの身体は全身びしょ濡れ。
だから、身体がどんどんと冷やされていった。
まるで、冷蔵庫の中に閉じ込められているかのような気分で、かつ寒くて寒くて凍えそうだった――。
「おまえたちも、このバカのせいで巻き込んでしまって悪かった――」
「俺は大丈夫だけど、まもが――」
「俺のカバンの中にタオルがある。よかったら使ってくれ。あと、巻き込んでおいて申し訳ないんだが、こいつの着替えも持ってきてくれるか?それも俺のカバンの中に入ってる」
「そんなの人の手を借りずとも俺1人で行ける――」
「バカか。そんな状態でうろちょろしたら風邪をひく。おまえはひとまず更衣室だ」
そう言って、アピスはズリズリとフェリスによって引きずられた。
本来ならば容易く抵抗出来るのだが、身体が完全に冷え切ってしまいうまく動かすことが出来なかった。
アピスは何の抵抗も出来ぬまま、更衣室へ連れて行かれるのであった――。




