#173 現れた謎の転校生
時を同じくして――。
みつ葉は校舎の階段を駆け上がっていた。
息を切らせながらも必死になって――。
そして、見えてきた扉を開くとそこは屋上だった。
放課後の屋上というのは夕陽があたり、きれいなオレンジ色に染まっている。
その中に2人ほど人影が――。
護琉と望夢であった。
実は、みつ葉は護琉にこの屋上に来るように呼び出されていたのだ。
しかし、なぜわざわざ屋上を指定したのか――。
それはここ屋上が誰にも見られず、かつ気兼ねなく話せる場所だからである。
さすがに校内でスピリット・アニマルをお披露目するわけにはいかない。
それにみつ葉と護琉は赤の他人だということになっている。
変に仲良くしているところを見られたがために、後の学校生活に支障が出ることだけは避けたい。
しかし、いつも護琉と望夢に会うときは私服姿が多いためか2人の制服姿を見ると不思議と違和感を感じてしまう。
特に護琉は制服の第一ボタンまでしっかりとしめてネクタイをしているため、いつもよりもより凛々しく感じてしまう。
それに対して望夢は第一ボタンを開け、ゆるくネクタイをしめているのでなんとなくチャラさを感じてしまう。
前髪のピンどめが余計にそのチャラさを引き立てているようにも思えてしまう。
確かに違和感が半端ない2人なのだが、護琉の肩にソソ、望夢の頭にシシが乗っているのを見てしまうとやっぱりいつもどおりの2人で少し安心する。
さて、みつ葉もドドを胸元に抱きかかえるとそのまま大好きな兄へと抱きついた。
そして、目の前にいる望夢へ1言。
「なーんだ、ののもいたんだ」
「悪かったな。兄妹の時間を邪魔するつもりはないんだが、残念ながら今はそうも言ってられなくてな――」
望夢の言葉にみつ葉は軽く首を傾げた。
「実は今日、僕たちのクラスに転校生が来てね――。そのことを伝えたくて君を呼び出したんだ」
「へぇ奇遇!あたしのところにも転校生が来たよ!!でも、そんな話ならROOPでもよくない?」
「――その転校生は誰だった?」
みつ葉を無視して護琉は話を続ける。
「えっと、お兄ちゃんの転校生のお話から聞かせてよ」
自然と話を逸らされすみつ葉。
それに対して、護琉は軽くため息をつくと衝撃的な名前を口にした。
「それぞれ高橋悠一と遊佐隆と名乗るアピスとフェリスだったよ」
その名前を聞いた途端、みつ葉の目が丸くなった。
「もう、お兄ちゃんはいつから冗談を真顔で言えるようになったのよ」
「嘘ではないでござるよ。セッシャもカバンの中からしかとその姿を見たでござる」
みつ葉はシシへと視線を送る。
しかし、シシは何も言わず静かに首を横に振るだけ――。
故に、護琉のその言葉に嘘偽りはないということだろう。
動揺を隠せないみつ葉にさらに追い打ちをかけるかのように望夢が続ける。
「星奈のところにも転校生が来たらしい。そいつは今井あすかと名乗るアペスだったと――」
みつ葉は完全に言葉を失ってしまった。
そんなみつ葉に護琉は容赦なく問いかける。
「――で、君のところに来た転校生は誰だった?」
言いたくないのか、それとも動揺でうまく言葉を発することが出来ないのかみつ葉は何も言わない。
「みつ葉、観念しろよ。おまえのところに来た転校生なんてだいたい予想がついてるんだからな」
「みつ葉、もう一度聞くよ。君のところに来た転校生は誰だった?」
もう言い逃れは出来ない――。
そう判断したみつ葉はゆっくりと口を開いてその名を口にした。
「本室みゆきと名乗る、愛華だった――」
その名に護琉と望夢だけでなく、ソソもシシも目を見開いた。
「嘘つくな!おまえのところの転校生は――」
「いいえ、ミツバは嘘をついていないですの。アタクシもその姿を見ましたが、あれはアイカ本人ですの。それに声も聞きましたが間違いないですの」
ドドの説明に多少納得がいかないのか、望夢は軽く舌打ちをした。
護琉と望夢の前にはアピスとフェリス、そして星奈の前にはアペスが現れた。
ということは、みつ葉の前に現れたのはケルベロスだと予想していたのだろう。
しかし、残念ながら読みは外れてしまったようである。
「おいおい、これってただの偶然か?」
「いや、必然だね。おそらく敵は確実に僕たちを潰そうとしているんだよ――」
「でも、不思議やなぁ。ヒナタはんとツキミはんのところには敵は現れてないんやろ?何でわざわざホシナはんを選んだんやろ?」
「それはクールナイツの正体が俺たち3人と星奈だということだけは絞れてるからってことだろ」
みつ葉、護琉、望夢の3人は過去にセピア・キングダムに幽閉されたことがある。
正体がバレたとしたら確実にその時だろう。
しかし、星奈はいつどこでその正体がバレたのか――。
知っての通り、星奈はおっちょこちょいである。
つまり、落ち着きがない。
また、日向や月美に比べると危機管理が非常に甘い。
だから、思い立ったら周りなど気にせず変身なんてしてしまうこともたまにある。
そんなことをするからどこかで敵にその正体がバレた――。
星奈なら十分に考えられそうな話である。
「とりあえず、まずは星奈をどうにかしないとな。あいつ、社交的なのはいいんだが時と場合を考えないからなぁ――」
「僕たちも転校生の目的がはっきりとするまではある程度の距離を保とう。分かったか、みつ葉?」
「分からない――」
みつ葉はボソッと呟いた。
「つまり、敵の目的がはっきりするまで仲良くなるな。簡単なことだろ?おまえ、そんなことも理解できないのか?」
「理解できるわけないじゃん!!」
みつ葉は大声を上げた。
「どうして?!何でお兄ちゃんもののも愛華のことを疑うの?!」
「明らかにそれが愛華じゃないからに決まってるからだ」
「証拠はどこにあるのよ?!」
「姿は愛華なのに本室みゆきと名乗るとか明らかにおかしいだろ!!そもそも何でおまえはそんな奴を普通に信用してるんだよ?」
「愛華だからに決まってるからじゃん!そんなにも疑うなら実際に見てよ!あれは紛れもなく愛華だから!!」
「まぁおまえがそこまで言うんだから外見は紛れもなく愛華なんだろうなぁ。だが、もしも愛人みたいに裏切ったらとか考えたことはなかったのか?」
「そんな――。愛華が裏切るわけないじゃん!!」
そんなみつ葉の態度に望夢は分かりやすく大きくため息をついた。
愛人は愛華の双子の兄。
そして、元愛の騎士である。
しかし、ある時を境にセピア・キングダムの幹部としてクールナイツと敵対する立場になった。
その理由は未だに不明だが――。
「ねぇみつ葉。どうして君は愛華が裏切らないと言い切れるんだ?」
「何言ってるの?愛華だよ?愛華があたしたちに――」
「その大切な大切な愛華をセピア・キングダムに置き去りにしたのに?」
――!!
クールナイツはメドゥーサを討ち倒すため、また愛華を助け出すためにセピア・キングダムへと乗り込んだ。
しかし、結果は惨敗。
また、セピア・キングダムに幽閉される日が来た――。
そう思っていたのだが、気がつけばなぜか人間界へと帰ってきていた。
愛華を置き去りにして――。
「それは前にも説明したじゃん!狐のお面を被ったわけの分からない奴が愛華を人質にあたしたちを送り返したんだって!!」
「でも、僕たちはその後すぐにセピア・キングダムヘ向かうことはなかった」
「それはセピア・キングダムへと道が絶たれたから!それに、あのときはあたしも含めて2人ともとてもじゃないけど動けるような状態にはなかったじゃない!!」
「――そんな事情を愛華が理解できると思う?」
セピア・キングダムに1人取り残された愛華は信じて待っていただろう。
きっとクールナイツは再び助けに来ると――。
しかし、クールナイツがセピア・キングダムを去って数ヶ月の時が経った。
その間に愛華を助けに行く者は誰もいなかった――。
きっと愛華は辛かっただろう。
そして、仲間を信じて待っていた愛華は裏切られた気分に陥ったことだろう。
「じゃあ、ちゃんとそのことを伝えようよ!」
「やめとけ。敵に回った愛華の前じゃただの言い訳にしかならない」
「だから、愛華は――」
「とにかく、謎の転校生とは距離を詰めるな。以上だ」
半ば強引に話をまとめた護琉は、みつ葉の耳元でこう囁いた。
「いいか。絶対に勝手な行動はとるな――」
それだけを言うと、護琉は屋上を出ていったのであった。
また、望夢もみつ葉の肩を軽く叩くと同じく屋上を出ていった。
2人の考えに納得がいかないのだろう。
みつ葉は唇を噛み締めた。
「ミツバ――」
優しく声をかけるドドの頭に、みつ葉の頬から伝った涙が落ちたのであった――。
高橋悠一
虹霓高校に転校してきたアピスとは瓜二つの少年。
遊佐隆
虹霓高校に転校してきたフェリスとは瓜二つの少年。
今井あすか
氷柱中学校に転校してきたアペスとは瓜二つの少女。




