#170 愛華にそっくりなみゆきと名乗る少女
「じゃあ、本室さんはあそこの空いている席に座ってくれる?」
そう先生に指示され、みゆきと名乗る少女が座ってきたのはみつ葉の隣の席だった。
みゆきの自己紹介を終えた後、クラスのみんなも自己紹介をした。
もちろん、みつ葉も自己紹介をした。
もしもみゆきが北陸愛華本人ならば、ここで何かしらの反応をするはずである。
そして先生から「何?すでに知り合いなの?」と言われる展開に転ぶはず――。
だが、みゆきがみつ葉の自己紹介を聞いても反応を示すことはなかった。
きっと彼女は北陸愛華本人ではない――。
残念ながら、みつ葉はそう素直に捉えることが出来なかった。
なぜなら、声が愛華本人とそっくりだからである。
それに瞳の色が左が紅、右が紫というオッドアイ。
これは完全に愛華の特徴と一致している。
そんな複雑な想いを懐きながら1時間目、2時間目、3時間目、お昼休憩を過ごした。
そして、4時間目、5時間目を過ごして放課後を迎えたとき――。
「ねぇ――」
突如、みゆきが話しかけてきた。
「あなたってずっと1人。お友だちはいないの?」
意外と心を抉るような質問を投げかけてきた。
「まぁいろいろあってみんなと仲良くする機会を失っちゃってね――」
「そうなの?じゃあ、わたしが初めてのお友だちになってあげようか?」
「えっ――」
――あたしたちは友だちじゃなかったの?
と、問いかけそうになったみつ葉はぐっと言葉を堪えた。
なぜなら、今の彼女は北陸愛華ではなく本室みゆきなのだから――。
「あぁうん――。あなたがいいのなら――」
「やった。じゃあみつ葉って呼んでもいい?わたしのことはみゆきって呼んでもいいから」
確かに声は愛華そのもの。
しかし、性格がやけにサバサバしている。
愛華はもう少し恥ずかしがりやだったはずだが――。
「ねぇあたしからもひとついい?」
「うんいいよ」
「――あたしのこと、本当に覚えてない?」
みつ葉の問いかけにみゆきは不思議そうに首を傾げた。
「ごめん――。変な質問しちゃったね――」
「いや別にいいけど。でも、どうしてそんな質問をするの?」
みつ葉は嘘偽りなく話した。
北陸愛華のことを――。
そして、本室みゆきがその北陸愛華に似ていることも――。
「ふーん。まぁ世界には3人ほど顔が似ている人がいるって言うものね。わたしとその愛華って子もそれに入るのかな?」
「ちなみに、瞳の色が特殊だけどそれはどうして?」
「これは両親の瞳をそれぞれ譲り受けたんじゃないかって言われてる」
「言われてる?」
「うん――。わたし、孤児院で育ったから両親の顔を知らなくてさ。だから、わたしも本当のことはよく分からないんだよね」
愛華は言っていた。
紫の瞳は祖母である雀からの遺伝であると――。
もしかして、本当に彼女は愛華ではなく愛華そっくりの別人なのだろうか――。
「あっわたし、そろそろ行かないとダメなんだった」
「行くってどこに?」
「先生のところ。転校初日っていろいろすることが多いみたい」
「へぇそうなんだ――」
みゆきはカバンを持つと、教室のドアへとスタスタ歩いていった。
そして――。
「バイバイ、みつ葉。また明日ね――」
そう言ってにっこりと微笑むと、みゆきはみつ葉を1人残して教室をあとにしたのだった。




