#166 噓つきは泥棒の始まり
その頃、部屋では――。
「昔のるんるんはね、まるでお人形さんみたいにおとなしくてかわいかったんだよ」
光の話に星奈、日向、月美が目を輝かせて耳を傾けていた。
「るんるんはクスリとも笑わないでしょ?だから、僕がるんるんって名付けてあげたんだ。なんかテンションが上がりそうな名前でしょ?でも、今じゃ『るんるんって呼ぶな!』って怒る始末――。いつからあの子はああ言う子に育ったのかしら――」
まるで母親みたいな物言いをする光。
もう一度言っておくが、護琉と光に血縁関係はない。
「なんか今のるんるんは、まるでるんるんじゃないみたい。あーあ、昔は僕をお姫様抱っこしてくれるぐらいに懐いてくれてたんだけどなぁ――」
ふと、星奈たちの視線が別のところに向いていることに気がついた。
しかも、なぜか少しだけ青ざめているようにも見える。
光も同じところに視線を向けようとしたのだが、突如ゴツンと頭の上に強い衝撃が加わった。
「おい、今何を話してた――」
護琉の声である。
しかも明らかに怒っている――。
「いや、あのですね、少しばかり昔話をと思いまして――」
実は先程、光はとある取引を星奈たちに持ちかけていた。
それは今、護琉が何をしているのか教えてほしいということ――。
「――で、何を話したの?」
護琉は星奈、日向、月美を睨みつけた。
当然、3人はサッと護琉から目を反らす。
「勝手に人のことを話すな!」
「痛い痛い痛い痛い痛い!!」
頭を何かでグリグリとされている。
このままグリグリされたら頭に穴が開くのではないかというほどにグリグリとされている。
そんな護琉と光をよそ目に、望夢は星奈、日向、月美にそれぞれメロンソーダ、ミルクティー、レモンティーを与えた。
「ごめん、護琉。そのぐらいにしてあげて。じゃないと、せっかく覚えたセリフが抜け落ちちゃうからさ――」
ふと、また別の見知らぬ男性が部屋に姿を現した。
「あれ、グレイさん。ここで何してるの?」
「うん、それはこっちのセリフなんだけどね――」
彼の名前は、小野アールグレイ村正。
あまりにも名前が長いので周りからはグレイと呼ばれている。
彼も吸血戦士ヴァンパイジャーに出演する俳優であり、グリーンヴァンパイジャーの役を担当している。
髪は金髪で、かつパーマ。
今作がデビュー作という、知名度はほぼ皆無の俳優である。
しかし、やはりテレビで見たことがある俳優ということで、星奈たちは目を輝かせた。
「護琉と望夢くんだっけ?2人が撮影現場に迷い込んじゃってね。監督に怒られる前にこっそり連れ戻しに来た」
「えーるんるん、その歳で迷子になるのー?」
「その言い方は少し失礼じゃないかな?君が無駄にコーヒーに拘りを持っているから、護琉は必死になって探してくれたのに――」
光は頭に乗せられているものに手を取った。
すると、それはいつも飲んでいる無糖のコーヒーだった。
「るんるん、僕の好きなコーヒーを覚えていてくれたんだ――」
「――あんたのことを忘れたことなんて一度もないよ。あと、るんるんって呼ぶな」
「そっか――。るんるん、クールナイツになってから全然顔を出さなくなったからさ。僕のことなんてどうでもよくなったんだと思ってた――。ありがとう、るんるん!」
と護琉に勢いよく抱きつこうとした光だったが、見事に交わされそのまま体勢を崩し床へ顔面激突ししてしまった。
「それでさ、彼女たちは護琉の仲間なの?」
ふと、グレイが護琉に問いかけてきた。
「仲間じゃありません」
「あぁごめんごめん。つい、ドラマの癖が出ちゃった。彼女たちは護琉の友だち?」
「だから違いますって!あぁもう、光もグレイさんも何でそう思うんですか?!」
護琉の問いかけにグレイは首を傾げる。
「あれっ違うの?。じゃあ、どうしてそこまで光を拒むの?」
「はっ?」
急に護琉が言葉をつまらせた。
そんな護琉をよそにグレイは言葉を続ける。
「護琉が光に可愛がられるのは今に始まった話じゃないでしょ。反抗期ってわけでもないのに急に光のことを拒んじゃってさ。僕、そこまで嫌がる護琉を初めて見たよ。だからもう一度聞くけど、どうしてそこまでして光を拒むの?」
「それは、光がうっとうしいからに決まってるじゃないですか――」
護琉はそっとグレイから視線を反らした。
「そっかぁ――」
グレイはゆっくりと護琉に近づいた。
「ねぇ護琉――」
そう声をかけて護琉がこちらを見た瞬間、グレイは護琉の両頬をつねった。
「痛い痛い痛い!グレイさん、痛い?!」
「君は嘘つきは泥棒の始まりという言葉を知ってる?」
護琉の両頬をつねりながら、グレイは続ける。
「僕は分かってるよ。護琉が光を拒む理由を――。それは苦楽を共にしてきたお友達に新たな側面を見られるのが恥ずかしいからだよね?」
図星だったのか、護琉はグレイから目を反らした。
「知らない側面を見られたがために孤独になったらどうしようと怖くて怖くて仕方ないんだろうけど、君の新たな一面を見て去っていくようならばそもそもそれはお友だちでも何でもない。だから、これからはもっともっと素の自分をさらけ出しなさい。それで、友情をもっともっと深めていきなさい」
グレイは護琉から手を離すと、護琉の頭を優しく撫でてあげた。
「わぁるんるん、顔真っ赤」
「これはグレイさんが顔をつねるから――」
「はいはい。護琉にお友達が出来て嬉しいのは分かるけど、光はこれ以上、護琉に嫌われたくなかったらからかうのをやめなさい」
「からかってませんー。ただ、本当に嬉しいんですよ。るんるんと一緒に笑ってくれる友だちが出来たと思うと――」
その言葉に嘘偽りはないのだろう。
光の顔は満面の笑みに包まれていた。
「――で、光は光でここで何をしてたのかなぁ?」
しかし、グレイのその言葉で光の顔から一瞬にして微笑みは失われたのだった――。
小野アールグレイ村正
吸血戦士ヴァンパイジャーにてグリーンヴァンパイジャーを演じる、まだまだ無名の俳優。
護琉とは顔見知りの関係。




