#14 その名をアルタイル
夢の騎士に変身した星奈は両手にスターポンポンを持って軽やかにパーク内を駆け巡っていった。
既に広範囲が黒く染められている。
その中で星奈はとある人だかりを見つけた。
まぁその人たちももちろん黒く染められているのだが――。
その中の1人の姿を見て、星奈は言葉を失った――。
星音がいたのだった。
その近くには星野も星夜もいた。
手遅れだった――。
星奈は目にはうっすらと涙が溜めた。
「ホシナ。お兄さんとお姉さんを元に戻せるのはホシナだけでしゅよ」
「うん――」
星奈は涙を軽く拭った。
「星夜お兄ちゃん、星ねぇ、星にぃ、待っててね。すぐに助けるから――」
ふと、見つめた先の星音の表情に違和感を覚えた。
――どうして、笑っているんだろう?
商店街では、出会したモノクロームを目の前に人々は顔をひきつらせて逃げ惑っていた。
しかし、星音を含め周りにいる人々も顔をひきつらせるどころか笑っていた。
星夜も星野も少しだけ驚いた表情をしているが、恐怖に怯えた表情かと言われるとそうでもない。
逃げるような姿勢でもない。
しかも、なぜだか分からないが星野に関してはスマホを構えていた。
星奈は人だかりにもう少し近づいてみた。
すると、人だかりの真ん中に明らかに不自然な空洞が出来ていた。
まるで、皆その空洞に集まっているようにも見えた。
「キャーっ!!」
色々と思考を巡らせていた星奈の耳に突如、女性の悲鳴が聞こえてきた。
「ホシナ、向こうの方でしゅ!」
「分かってる!」
星奈は悲鳴が聞こえてきた方へと急いだ。
すると、なにやらウォーターガンを背負ってる人が1人――。
そして、それに興奮しながらスマホを構える人が数人――。
みんな、笑っていた――。
もしかして、今のは悲鳴ではなく歓喜の声であったのだろうか――。
先ほど星奈が見たような人だかりが徐々に出来ていく。
そして、ウォーターガンを背負った人がそれを構えると人だかりに向かって黒い霧を噴射した。
集まった人々は表情は笑ったまま黒く染められていってしまった。
まさに、先ほどの人だかりと同じ状況であった。
間違いない――。
星音たちはこのモノクロームに襲われたのだ。
「許さない――」
星奈はモノクロームめがけてダッシュした。
しかし、気配を悟られてしまったのかモノクロームはその場から足早に去ってゆく。
「ホシナ。あいつはこの四季の国をすべてモノクロに変える気でしゅよ!」
「そんなことさせないんだから!」
軽やかに逃げるモノクロームを必死で追いかける星奈。
モノクロームは逃げている間にも黒い霧を噴射し、次々と建物を黒く染めていく。
さっさとモノクロームを浄化すればいい話なのだろうが、この霧に当たってしまっては自分も黒く染まってしまう。
星奈は距離をとってモノクロームの後を追うしかなかった。
しばらく追いかけた後、気がつくと四季の国入り口付近に戻ってきていた。
ここもすでに黒く塗り染められていた。
「待っていたぞ、夢の騎士――」
突如、男性の声が聞こえてきた。
しかし、周りを見渡しても姿は見当たらない。
「ここが貴様の墓場だ。やれ、モノクローム!」
今まで背を向けていたモノクロームが、やっと星奈に顔を見せた。
そのモノクロームはとてもきれいな女の人だった。
このような女性がモノクロームだと――。
――信じられない。
見とれている星奈などお構いなしに、ウォーターガンを構えて霧を噴射してくる女性。
星奈は危機一髪でそれを避けた。
「どうしよう――。これじゃあ近づくことも出来ないよ――」
「でも、このままだとどんどん領地が広がっていくでしゅ――。あっまた来るでしゅ!」
近づくことも出来ずにただ逃げるだけ――。
このまま何も出来ずに四季の国がモノクロに染まるのを黙って見るしかないのだろうか――。
星奈は必死に黒い霧を交わしていく。
しかし、そのような状態でいい打開策が見つかるはずもない。
――どうすればいいの。
そのときだった。
カスッカスッとショボい音を立てるウォーターガン。
黒い霧も出てくる様子がない。
まさかの霧のストックが切れたらしい。
それでも頑張ってウォーターガンを星奈に構える女性。
それを見てきょとんとする星奈。
シャボン丸2号のときと言い今と言い、モノクロームはアホばっかなのだろうか――。
「何してるでしゅか!今がチャンスでしゅよ!」
「う、うん!」
星奈は高く翔び上がると――。
「スター ドリーム・スプラッシュ!」
水色の光が優しくモノクロームを包み込んだ。
さて、浄化されたモノクロームの正体は入り口で来園者を迎えているひまわりの人形であった――。
少し黒く汚れてしまったひまわりの頬を星奈は優しく拭ってあげた。
「後で元いた場所に連れていってあげるね――」
ふと、星奈はひまわりの近くに黒い色をした鍵が落ちているのを見つけた。
それは持ち上げると、塵のようにサラサラと消えていった――。
「どうしてひまわりちゃんにこんなことさせたの?」
星奈が振り返ると、そこにはいつの間にか黒基調の服に身を包み、サングラスをかけた青年が立っていた。
「非常に使い物にならない人形だったな。アホにもほどがある」
「ひっどい!ひまわりちゃんに謝ってよ!!」
「ただの人形に謝るバカがどこにいる?」
「違う!ひまわりちゃんは四季の国でわたしたちを出迎えてくれる優しいお人形さんだよ!」
青年はチッと舌打ちをした。
「ごちゃごちゃとうるさい奴だ。今すぐにでも貴様を消し去ってやりたいところだが、今回のところは見逃してやる――」
戦闘体勢に入っていた星奈は青年の態度にきょとんとした。
よく聞くと、遠くの方でアトラクションが動く音や人々の声が聞こえてきた。
どうやら、モノクロームを倒したことによってパーク内が徐々に元通りになっていっていったのだろう。
ここも、いずれ元通りになる。
そうなれば、夢の騎士の姿を見られてしまう。
それはそれで非常に都合が悪い。
きっと青年も同じ考えなのだろう。
「次に会ったら絶対にあなたを倒すんだから!」
「ほう。それは楽しみだ――」
青年は星奈に背を向けてゆっくりとその場を離れていった。
「わたしは夢の騎士、クールスター!あなたは?!」
「アルタイル――。貴様を倒す男の名だ――」
アルタイルは星奈に背を向けたまま答えた。
そして、その場から静かに姿を消した。
「アルタイル――。この前、ミミがお話ししてくれたときにはそんな名前出てこなかったよね?」
「聞いたことがない名前でしゅ。ボクも初めてあいつの姿を見たでしゅ――」
アルタイルは次も必ず夢の騎士を倒すために姿を現すであろう。
「ホシナ。あいつの力量は分からないでしゅ。油断せずにこれからも戦うでしゅよ!」
「うん!」
星奈はひとまず、ひまわりを元いた入り口に戻してあげた。
これで、また明日から来園者を快く出迎えてくれるであろう。
「ところでホシナ――」
「ん、どうしたの?」
「早くジュース買って戻らなくていいでしゅか?」
「あー!忘れてた!!」
星奈は急いで変身を解き、兄姉たちのもとへと走っていくのであった――。




