#157 究極の選択
これは謎の3人組が現れる数十分前のこと――。
天井に大きく開いた2つの穴。
床に散らばった大量の髪の毛かつシャンデリアの破片。
バキバキにひび割れた床。
そのどれに対しても反応することなく、シスターはメドゥーサのもとへと一目散へと向かった。
そのメドゥーサはというと、何を考えているのか石像と強固に抱き合っていた。
シスターはメドゥーサの肩を叩いてみた。
しかし、反応がない。
次にシスターはメドゥーサの身体を大きく揺らしてみた。
しかし、これまた反応がない。
――。
シスターは諦めて石像の方へと視線を移した。
すると、これが夢の騎士を型どった石像であることに気がついた。
しかも、服のシワから髪の毛1本1本まで細かいところもよく再現されている。
よく作られた石像である。
――。
この石像に不信感を抱いたシスターは改めて周りを見回してみた。
すると、ここから少し離れたところに同じような石像が5つほど転がっていた。
あれはそれぞれ笑顔、祈り、癒し、守護、希望の騎士を象った石像であった。
「――失礼」
何か気になることがあったのか、シスターはメドゥーサにそう声をかけるとメドゥーサの服の中を探った。
そして、今にも壊れそうなほどボロボロになった黒い鍵を取り出した。
これはメドゥーサの核、つまりはメドゥーサの心臓である。
それを目にしたシスターはこう考える。
ここに転がっているクールナイツの石像はクールナイツ本人たちが石化したものだと――。
おそらくだが、クールナイツは必死の思いでメドゥーサの浄化を試みたが鍵までは完全に浄化出来なかったのだろう。
故に、メドゥーサの呪いが解けないのだ。
さて、そうと分かればやることは1つである。
シスターは夢の騎士からメドゥーサを引き離そうとした。
しかし、メドゥーサの身体は簡単に動かせても石像を動かすことは出来ない。
しかも、厄介なことに夢の騎士はメドゥーサに強く抱きついてしまっている。
この状態で無理やりメドゥーサを引き離せば、メドゥーサの身体を傷つけかねない――。
2人の周りをぐるぐる周りながら、夢の騎士とメドゥーサを引き離そうと奮闘すること数分――。
足元を気にしていなかったシスターは何かに足をひっかけて転んでしまった。
――。
ズレた仮面を定位置に戻す。
触った感じ、割れている様子はない。
さて、何に足をひっかけたのかと足元に視線を移したシスターは言葉を失った。
シスターが足をひっかけたのは長い髪の毛に絡まりながら床に倒れるケルベロスとフェリスだった――。
シスターはケルベロスの肩を揺すった。
しかし、反応がない。
シスターはフェリスの肩も揺すってみた。
しかし、同じく反応がない。
何回も何回も2人の肩を揺すったが、やはり2人が反応してくれることはなかった。
シスターは一度動きを止め、そのまま2人を見つめた――。
そしてしばらくした後、シスターはケルベロスの手にフェリスの手を重ねたのだった。
「ケルベロス、フェリスはちゃんとあなたの隣にいるわよ――。フェリス、ケルベロスが隣にいるのだからあなたは1人ではないわ――」
それだけを言うと、シスターは立ち上がり歩き出す。
向かった先は癒しの騎士の石像の前だった。
なぜ、癒しの騎士なのか――。
それは癒しの騎士だけが完全に石化していなかったからである。
だが安心してほしい。
石化は彼女の首元まで進んているので身体を動かして襲ってくることは絶対にない。
また、首元まで石化が進んでいるのでどうやら声が出せないらしい。
唇を震わせながら怯えた表情でこちらを見ている。
おそらく、後数分もしてしまえば他の仲間のように石像と化すだろう。
そんな癒しの騎士にシスターは問いかけた。
「あなたは自分の命が惜しいですか?それとも、あの少女の命が惜しいですか?」
ポケットから取り出した新たなモノクロームの鍵を癒しの騎士の額に押しつけながら――。




