#148 その名をキメラ
背後から見知らぬ男2人を両手に掴んで、その男は突然現れた。
嫌味ったらしく足音を立てながらゆっくり、ゆっくりと――。
「へぇ楽しそうなことしてるじゃねぇか――。僕も混ぜてくださいよ」
それだけを言うと、その男は見知らぬ男2人だけを置いて姿を消してしまった。
「あ゛ぁ!」
聞こえた声に振り返ると、せっかく捕らえたはずのクールナイツにヘビごと攻撃を加えられていた。
ヘビの拘束から解かれたクールナイツたちは重力に従って床へと落ちる。
だが逃げる素振りは見せず、ただ床に突っ伏したままだ。
ついでに、彼女たちの上に大量の髪の毛がひらひらと散っていった。
髪を切られたためにヘビたちが形を保てなくなってしまったのだ。
おかげで、数千匹ほどいたヘビのほとんどを失ってしまった。
目の前で倒れるクールナイツを見たとき、まるで獲物を横取りされたような感覚に陥った――。
それを理解した瞬間、非常に腹が立った。
メドゥーサはヘビを一瞬で再生させると、動かぬクールナイツにさらに攻撃を加えようとする男の腕や足にそのヘビを巻きつけた。
「おい貴様、何者だ?」
男は答えない。
その代わり、力づくでヘビの拘束を解こうとしていた。
男の考えは分かる。
力づくでヘビを引き千切ろうとしているのだろう。
つまり、ただの馬鹿力でこの場を凌ごうとしている。
しかし、あまり頭を使わないということは実は馬鹿なのだろうか――。
メドゥーサはそんな男に対して必死で抵抗した。
しかし、なんて力だ――。
このまま抵抗し続ければ髪の毛が根本から抜け落ちてしまいそうだ。
だから、メドゥーサは1度男をヘビから解放した。
「答えろ。貴様は何者だ?」
「――我が名はキメラ」
男はそう名乗った。
頭に血が登り頭ごなしにいろいろ聞いてしまったが、それでは相手も不快に思い何も答えない。
やはり、冷静に対処して話を進めるのが1番である。
「言え。誰の指示で、かつここへ何をしに来た?」
「別に深い意味はありませんよ。ただ、暴れに来ただけだ」
クールナイツを捕らえるのに時間がかかりすぎている――。
そう思ったハクとコク仕向けた新たな刺客かと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「ならば、他をあたれ。クールナイツは我が獲物であるがゆえな」
「それは聞き入れられません。どうして、俺がおまえの言うことを聞かなくちゃならねぇんだよ?」
思うような答えが聞けず、メドゥーサは大きく舌打ちをした。
「そうか――。では貴様もクールナイツ同様、我が魔眼にて石化の上、粉々に砕いてやる」
「おぉ怖い怖い。では――」
そう言って、キメラは目を閉じた。
魔眼を避けるためには目を閉じる――。
それがありきたりな方法だ。
だが、戦いの最中に目を閉じるなど敵に背を向けるも同然――。
――終わったな。
勝ちを確信したメドゥーサは1匹のヘビをキメラへと向かわせた。
理由は簡単。
そのヘビをキメラの首へと巻きつけて、そのまま息の根を止めるため――。
万が一、抵抗するとしてもさすがに目を閉じたまま抵抗は出来ないだろう。
思わず目を開けたところを魔眼で覗き、石化の後に砕くだけだ。
しかし、そう事はうまく運ばなかった――。
ヘビがキメラの首に巻きつく前に、キメラがヘビを捕まえたのだった。
――?!
バレぬようにと静かにヘビをキメラへと向かわせたのだが、少し慎重になりすぎたか。
今度は別のヘビを素早くキメラのもとへと向かわせてみた。
しかし、結果は同じ。
またしてもキメラの首にヘビが巻きつく前にキメラによって捕らえられてしまった。
キメラの目は確かに閉じられている。
つまり、どこからヘビがどの角度から向かってきているのか分からないはず――。
なのに、どうしてここまで正確にヘビを捕らえられてしまうのか――。
「なんだ、こんなものかよ。ガッカリですね」
キメラのその言葉に非常に腹が立った。
「ならば、これならどうだ!!」
メドゥーサは怒り任せに数千匹のヘビを一斉にキメラへと向かわせた。
「さすがの貴様でも目を閉じた状態では手も足も出まい!!」
キメラに群がるヘビたち。
数分後、満足したメドゥーサがヘビを呼び戻すと、すでにその場にキメラの姿はなかった――。
――?!
数千匹も向かわせたのだ。
ヘビたちがキメラの肉体のすべてを喰らい尽くしてしまった可能性はある。
だが、それにしてはあまりにも手応えがなかった。
それに、何も残らないなんてさすがにおかしい。
地下に潜って逃げたか――。
いや、床が掘られたような形跡はない。
では、跳び跳ねたか――。
メドゥーサは天井に目を向けるが、ただ規則正しくシャンデリアが並べられているだけで何もない。
まさかと思い、クールナイツが倒れている方へ視線を向けた。
しかし、クールナイツ4人が倒れているだけでキメラの姿は見当たらない。
では、どこに行った――。
前を確認してもいない。
左右を確認してもいない。
頭上を確認してもいない。
だとしたら――。
「後ろか!!」
そう叫び後ろを振り返ったときには、すでにキメラが目の前にまで迫っていた――。
「おせぇよ、バカ――」




