#13 ボクがいるでしゅ!
兄姉たちから離れ、周りに特に誰もいないことを確認すると星奈は鞄を開けた。
すると、ミミがピョコっと顔を出し大きく背伸びをした。
「もう、お兄ちゃんたちがいる前では絶対にぬいぐるみのふりをするという約束をしたでしょ?」
「朝から鞄に詰められて、挙げ句の果てに上下左右に激しく揺らされるこっちの身にもなるでしゅ!」
そういえば、星奈は朝っぱらからいろいろと走り回っていただろうか――。
その間に鞄は大きく揺れていたのだろう。
その中でミミは星奈との約束をずっと守っていたのだった。
しかし、とうとう疲れてしまったらしい。
「ごめん――」
「分かればいいでしゅ。ところで、今日のホシナはいつも以上に楽しそうでしゅね?」
「だって、今日は久しぶりに兄妹で集まれるんだもん!すっごく楽しみだったよ!」
「――いつもは楽しくないでしゅか?」
「そ、そんなことないよ!」
星奈はえへへと笑ってみせた。
「ホシナは家ではたまに寂しそうな顔をするでしゅよ。どうして、そんな顔をするでしゅか?」
「ミミはよく見てるんだね――」
星奈は優しくミミの頭を撫でる。
それが嬉しいのか、ミミはしっぽをぶんぶんと振っている。
「――わたしのお父さんとお母さんは共働きでいつも帰りが遅いんだ。幼い頃もお父さんとお母さんより、星夜お兄ちゃんと星ねぇ、星にぃにお世話してもらった記憶の方が強いかな?」
「お父さんとお母さんがいなくて寂しかったでしゅか?」
星奈はゆっくりと首を横に振った。
「自分では寂しいとか思ってたつもりないんだよ。ただ、星夜お兄ちゃんが関西に行くために家を離れて、数年前から星ねぇと星にぃも社会人になって帰りが遅くなって、ずっと一緒にいたはずのひぃちゃんとつきみんとも離れ離れになっちゃって――。なんかこう、心にぽっかり穴が開いたような感覚かな?」
星奈の手の甲に涙がぽたぽたと落ちてゆく――。
――それを寂しいと言うんでしゅよ。
ミミはあえてそれは言わずに、星奈の手に落ちた涙をペロッと舐めた。
思いの外しょっぱかったのか、すぐに吐き出してしまったが――。
その仕草がとてもかわいくて、星奈はクスッと笑った。
「もう何してるのよ」
「――いるでしゅ」
「ん?何て?」
「これからはボクがホシナとずっと一緒にいるでしゅ!だから、もう泣かないでほしいでしゅ――」
「ミミ――」
本当は泣きたくなるほどに寂しかった――。
もう少し父や母の愛情を感じたかった――。
星夜、星音、星野、日向、月美――。
徐々に自分のもとから去っていってしまい、本当は泣き出したくなるほどに寂しかった――。
でも、その寂しさを隠すために泣いてはいけないと思っていた――。
だけど、もう泣いていいんだ――。
星奈はミミを抱き上げると、顔に近づけてギュっと抱き締めた。
そして、小さく一言呟いた。
「ありがとう――」
ミミは優しく星奈の頭を撫でてあげた。
その間にも星奈は静かに涙を流しながら泣いていた。
「さぁ早く戻らないとホシナのお兄さんが心配するでしゅよ」
星奈は涙を拭うと笑顔で頷いた。
「うん!」
そういえば、今まで気付かなかったがやけに周りが静かなような――。
星奈があえて人目がつかない場所を選んだということもあるが、それにしても静かではないだろうか――。
近くには先ほど、星夜たちと乗ったジェットコースターが見える。
誰が乗っているかまでの判別はつかないものの、楽しそうな声などはここにまで聞こえてくるはずだ。
しかし、さっきから声は聞こえないどころかジェットコースター自体動いていない気がする。
故障だろうか――。
なんだか嫌な予感がした。
それはミミも同じであった。
「ミミ、戻るよ!」
「はいでしゅ!」
星奈はミミを鞄に入れると、急いで星夜たちがいる場所へと戻った。
しかし、戻っている途中で足を止めた。
あの日と同じように何もかもが黒く染まっていたのだ――。
「星夜お兄ちゃん!星ねぇ!星にぃ!」
「待つでしゅ!」
「待てないよ!このままだと星夜お兄ちゃんたちも黒く染まっちゃうよ!」
「だからといって、ただのヨワホシナに何が出来るでしゅか?これはモノクロームの仕業であることは確かでしゅ。すぐそこにモノクロームがいるかもしれないんでしゅよ?」
――それは分かっている。
しかし、どうすればパーク内の人々を助けられるだろうか――。
このまま見つかってしまっては星奈自身も黒く染められて終わりである。
考えをぐるぐると巡らせている星奈にミミはあの星形のコンパクトを差し出した。
「さぁホシナ、変身するでしゅよ!」
「う、うん?」
――そうだ、わたし変身出来るんだった。
星奈は星形のコンパクトを構えた。
しかし、何も起こらない――。
「何してるでしゅ?」
「――変身の仕方がわからない」
「この前変身したでしゅ!」
「この前は知らないうちに変身してたし!何これ、呪文唱えたら変身出来る?」
ミミは大きくため息をついた。
その間にも、何人かの人々の悲鳴が聞こえてきては途絶えた。
きっとモノクロームがすぐそこにいるのだろう――。
「いいでしゅか?ボクの問いかけに答えるでしゅ!」
「うん!」
ミミは深く息を吸い込み、息を整える。
「どんな色が好きでしゅか?」
「水色が好き――。心が落ち着く――。だから、水色が好き!」
水色のコスチュームを身にまとい、変身した星奈はこう叫んだ。
「夜空に瞬く水色の夢!夢の騎士、クールスター!」




