#146 その名をメドゥーサ
みつ葉は目を疑った。
なぜなら、目の前に現れたのが紛れもなく愛華だったのだから――。
愛華だと思った理由は瞳の色が右目が紫、左目が紅だから――。
だが、その瞳は人間のものではなくヘビそのものだった。
でも、顔は完全に愛華本人――。
見間違えるはずがない。
服だって別れたときのそのままだ。
「天井を突き破るとは大胆な行動に出たものだな。もっと華麗に侵入することは出来なかったのか?」
だが、話し方が完全に別人である。
皮膚も人間のものではなく、完全にヘビのものになっている。
「まぁよい。探す手間が省けた――」
愛華が敵意を向けてくるはずなんてない。
もしかして、目の前の人物は極限まで愛華に姿を似せた別人なのだろうか――。
「愛華さん――」
星奈がポツリと呟いた。
見ると、啞然となって目の前の人物を凝視している。
日向と月美も同様に目の前の人物を凝視していた。
やはり、間違いない。
あれは愛華なのだ。
「我が名はメドゥーサ。とある命により、貴様らを捉えにきた」
メドゥーサ――。
クールナイツが勝てなかったあのモノクロームの名である。
「違う!あなたは愛華さんでしょ?!」
「さっきから愛華、愛華とうるさいのぉ。あぁもしや、この身体に宿っていた魂か?それなら、既に我が喰らってやったが?」
そう言って、ペロリと上唇を舐めるメドゥーサ。
その舌も人間のものではなく、ヘビのものだった。
――え?
みつ葉の頭の中は一瞬、真っ白になった。
実は愛華とは四季の国の一件より前に出会っていた。
しかし、それが最初で最後の出会い。
なぜなら、夢斗によって愛華と会うことを禁じられたからである。
だが、それはもちろん愛華が邪魔者だからではない。
一般人である愛華を危険に巻き込まないためだ。
だがあの日、愛華が愛人だと偽って四季の国へやってきた。
愛華が自らの足で会いに来てくれたのだ。
それはそれは嬉しかった。
だから、あの日も追い返すこともなく1日中一緒に遊んだ。
おかげで、クールナイツであるということがバレてしまったが後悔はない。
しかし、その愛華がモノクロームだと知ったときは本当に絶望した。
一度は軽蔑だってした。
だが、それはアピスによってモノクロームの鍵を植えつけられたから――。
つまり、愛華はハクとコクの手駒にされたのだ。
許せなかった――。
――愛華を必ずこの手で取り戻す。
その想いを抱いてセピア・キングダムへと潜入した。
なのに、確かに今メドゥーサは言った。
愛華を喰らったと――。
それはつまり、愛華はもう――。
ただ呆然とメドゥーサを見ることしかできなかったみつ葉は突如、何者かに押し倒された。
「何、ボーッとしてるんですか!!」
みつ葉にのしかかり、そう叱ってくるのは日向だった――。
「おや、仕留め損なったか――」
メドゥーサの言葉の後にシャーッというヘビの威嚇音が聞こえてくる。
それで理解した。
日向はメドゥーサの攻撃からみつ葉を守ってくれたのだと――。
「愛華さんを助けたいんでしょ?なのに、どうして愛華さんを目の前にして戦意消失してるんですか?!」
「だって、愛華は、もう――」
みつ葉の目から自然と大粒の涙がこぼれ落ちていく。
「だからってあいつを放置していい理由にはならない!!たとえ喰われたとしてもあいつの腹の中から愛華さんの魂を救い出さないといけない――」
日向が言葉を途中で止めた。
いや違う――。
ヘビが日向の首に巻きついて、言葉を発することを阻止しているのだ。
「おい小娘。2度と愛華という名を口にするな。目覚めてしまったらどうする――」
それだけを言うと、メドゥーサはヘビを日向から解放した。
数秒でも呼吸が出来なくてひどく苦しかったのだろう。
日向は大きく咳き込んでみつ葉の上に倒れかかった。
「再びその名を口にしてみろ。次は貴様らの首の骨を折る」
愛華は無邪気で人懐っこい女の子だった。
故に、人を脅すようなことは絶対に言わない。
だから、愛華の身体を使ってやりたい放題するメドゥーサにひどく腹が立った――。
「ありがとう、日向。――ごめんね」
そう言って、みつ葉は日向を優しく抱きしめた。
今、クールナイツは何人もの人の命を握らされている。
メドゥーサを倒さなければその人たちの命が失われるかもしれない。
だから、愛華がメドゥーサに喰われたからという理由だけでメドゥーサを放置していいはずがないのだ。
それを日向が気づかせてくれた――。
「――あたしたちより先輩ならしっかりしてよね」
「そう言われたら返す言葉がないわね」
そう言って、2人で見つめあいクスッと笑い合う。
さて、癒しの力のおかげで日向の呼吸も落ち着いてきた。
みつ葉は日向とともに立ち上がり、ともにメドゥーサを見据える。
そして、覚悟を決めてメドゥーサに対して一歩を踏み出したときだった。
急な睡魔がみつ葉の身体を襲い、そのまま大きくふらついてしまった。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
ヘビによって足を掴まれたか――。
毒をもられたか――。
いや違う――。
これは癒しの力せいだ。
癒しの力は自他共に癒やすことが出来る。
しかし、自身が危険な状態に陥るほどのダメージを受けた場合、その回復目的で眠りについてしまう。
これがまた制御出来ずに勝手に発動してしまうのだ。
だが、癒しの力はすでに発動していたはず――。
なぜなら、この部屋に落ちた後は気を失っていたのだから――。
気を失っていた本当の理由は癒しの力が発動していたから――。
そう考えるのが正しいだろう。
しかし、実際に癒しの力が発動したのは今。
まさか、先ほどは本当に気を失っていただけなのだろうか――。
それは絶対にない。
なぜなら、この部屋に落ちたことによってかなりの衝撃がみつ葉の身体を襲ったのだろうから――。
仲間の傷を癒した後も特に自身の身体にダメージを負った覚えはない。
もしかして仲間の傷を癒したがためにもう一度、癒しの力が発動したのだろうか――。
それも絶対にない。
だって、彼女たちに目立った外傷なんてなかったのだから――。
しかし、残念ながらあれこれ考えたところで解除出来る力ではない。
1度発動してしまえばそのまま回復から目覚めるのを待つのみである。
「ごめん、あとは任せた――」
最後の力を振り絞り、みつ葉はそう呟くとそのまま深い眠りへとついたのだった――。




