#144 守護の騎士は頑固者
護琉と別れた星奈、日向、月美、みつ葉の4人は言われた通り、扉を破壊しながらただ真っ直ぐに部屋を進んでいた。
それはそれは、非常に地道で驚くほどに楽しくない作業であった。
「本当によかったんですか?」
ふと、日向がみつ葉に話しかけてきた。
「何が?」
「護琉さんのことに決まってるじゃないですか。1人きりにして、またどこかでぶっ倒れても知りませんよ」
「――仕方ないじゃない。たぶんあれ、わざと別行動したそうだったし」
「そうなんですか?」
「そうなの。それに、お兄ちゃんはあぁ見えて意外に頑固でね。1度決めたことはなかなか曲げないから、あそこで止めても無駄だったと思うの」
「へぇ――」
「ってか、お兄ちゃんのことが心配ならもう少し素直になりなさいよ。そういう嫌味な言い方はやめなさい」
「別に心配とかしてないんで――」
「ちょっとそこの2人!ベラベラ喋ってないで、ちゃんと作業してよ!!」
突如、星奈が大声で叫んだ。
実のところ、今まで扉を破壊してきたのは星奈と月美の2人だけ――。
日向とみつ葉は何もせず、2人のあとをついていくだけだったのだ。
「あたしのクローバーバトンじゃ扉を破壊出来ないことはさっき見たでしょ?」
「右に同じく」
日向とみつ葉は端から星奈と月美に非協力的だったわけでない。
『サン スマイル・シャイン!!』
『クローバー ヒーリング・ブリーズ!!』
そうやってサンヨーヨーを、クローバーバトンを駆使して扉を破壊しようとしたが残念ながら威力が弱かったのか扉はびくともしなかった。
しかしスターポンポンとムーンロッドでは威力が強いらしく、難なくと扉を破壊することが出来た。
だから、早々に諦めただけなのだ。
「わたし、さっきから何回『ムーン プレイ・クレセント!!』って言ってると思ってるんですか?!」
「わたしも結構な回数で『スター ドリーム・スプラッシュ!!』って言って扉に突っ込んでるからね?!もっと2人も頑張ってよ!!」
「あら、そんだけ言ってたら周りの部屋にも声が聞こえてそうね?もしも、すぐそこに玉座の間があったらののにもその声が届いてるかも?その声であなたたちの頑張りを認めてくれたののは果たしてどんなことをしてくれるのかしら――」
星奈と月美は想像してみる――。
扉を壊した先に望夢がいたときのことを――。
よく頑張ったなと言って頭を撫でてくれる望夢の姿を――。
いや、抱きしめてくれる姿を――。
「わたし、もう少し頑張る」
「わたしも頑張る」
まんまとみつ葉に言いくるめられた星奈と月美は再びやる気を出して扉を破壊していった。
「こっわ――」
日向は小さく呟いた。
「何か言ったかしら?」
「いえ、何も――」
さて再び部屋を進んで、またしばらく経った頃だった。
「何これ?!」
月美が突如、大声を出した。
皆で月美が指さす方向を見ると、何があったのかと疑ってしまうほどに荒らされた部屋が目に入ってきた。
星奈と日向、月美は言葉を失いそのまま固まってしまったが、みつ葉だけは違った。
しっかりと足場を確認し、かつ安全であることを確認したあと荒らされたその部屋ヘと足を踏み入れた。
まず目に入ってきたのが、大きく崩れ落ちた壁。
おかげで風が流れ込み、塵やホコリを運んでくるので非常に空気が悪い。
それ以外にも床や壁には大きな傷がいくつも目立っていた。
次に目に入ってきたのが光輝く床。
そして、目の前には崩れ落ちたシャンデリアが――。
おそらく、この床が光り輝いているのはシャンデリアの破片が太陽の光に反射しているからだろう。
「ねぇここって、もしかして玉座の間じゃない?」
日向の声に振り返ると、星奈と月美も共に足を踏み入れていた。
どうやら、みつ葉が入っていったのを見て改めて安全だと理解したらしい。
しかし、ここが玉座の間だというのならば大いに荒れている理由に納得がいく。
なぜなら、望夢とケルベロスの戦いの激しさを物語っているのだから――。
だが、どれだけ辺りを見回しても望夢の気配はおろか、ケルベロスの気配すら感じられない。
2人はいったいどこへ――。
「ねぇののくんはどこに行ったのかな?」
「壁をぶっ壊して外へ逃げたんじゃない?」
星奈と日向が前向きな会話をしている。
少しでも悪い方向に考えを持っていきたくないのだろう。
だが、残念ながらここは現実を教えるべきだ――。
「残念ながら、壁を壊したのはののではないわね」
「どうして?」
「もしもののが壁を破壊したのならば、破片は部屋の中ではなく外に散らばっているはずだから――」
故に、これは第3者が外から玉座の間ヘ侵入してきた証拠だ。
「そんな――。じゃあ、お兄ちゃんはその人に――」
月美は今にも泣き出しそうな声を出した。
「まぁ壁は壊してないんでしょうけど、このどさくさに紛れてののがここから逃げ出したという可能性もあるでしょうね」
みつ葉がそう考えるのには、大きく2つの理由があるため――。
1つ目――。
ここへ来るまでの間に大きく傷ついた部屋はひとつも見当たらなかったこと――。
もしも望夢が部屋を移動しながらケルベロスと交戦していたのならば、他の部屋にも大きな傷ぐらいあってもおかしくはない。
2つ目――。
ケルベロスがみつ葉たちの元へ現れなかったこと――。
みつ葉たちは扉を破壊して今まで進んできた。
それはそれは豪快に音を出しながら――。
たとえ、場所が離れていたからといっても聴力が鋭いケルベロスがこの不審な音を聞き逃すとは思えない。
以上のことから望夢とケルベロスはすでにこの城内にはいないと思われる。
だが、2人とも自らこのお城から逃げ出したわけではなく、第3者によって連れ出されたという可能性もないわけではない。
ただ、さすがにこれを口にしてしまえば今後の戦いに支障が出てしまうかもしれないので黙っておこう――。
さて、誰もいないと分かった玉座の間にもう用はない。
とりあえず望夢の行方を探し無事を確認しなければ、それもそれで今後の戦いに支障が出る。
護琉には扉さえ壊していればあとで適当に合流できるだろう。
「さぁさっさとののを探しに――」
と言っている途中で、突如部屋が大きく揺れた。
それも真っ直ぐに立ってられないほどの激しい揺れだった。
しかし、この揺れはきっと地震などの自然なものではない。
ドスンドスンと、ある程度の感覚を空けて揺れている。
明らかに人工的な揺れである。
激しい揺れの衝撃に耐えられず、天井から次々に塵が降ってくる。
ただでさえ、ボロボロに傷つけられているのだ。
この玉座の間が崩れてしまうのも時間の問題かもしれない――。
「ここにいたら危ない!早くここから――」
みつ葉がそう声を張り上げたときだった。
突如、みつ葉の足元の床が崩れ落ちたのだった――。
「「「みつ葉さん!!」」」
星奈たちの叫びを聞きながら、みつ葉は重力に引きずられるまま暗闇へと吸い込まれていくのであった――。




