#131 扉の先に待ち受けていた者
お城の扉を開けると、まず目に入ってきたのは天井にぶら下がる大きなシャンデリアだった。
次に目に入ってきたのはモノクロで統一された部屋。
さらに視界を左右に向けると、それぞれ扉が1つずつ。
そして、目の前には大きな階段が――。
途中には踊り場があり、そこから階段がまた左右に分かれている。
そして、その先にまたそれぞれ扉が1つずつ。
つまり、この部屋には計4つの扉があるということになる。
さて、どの扉を開ければハクとコクが、あるいはメドゥーサがいる部屋に辿り着けるのだろうか――。
「シシ。部屋の間取りは分かるか?」
『残念やけど知らんな』
シシ曰く、こんな大きなお城は見たことがないのだと――。
おそらく、このお城はレインボー・ミレニアムからセピア・キングダムに移り変わったときに建てたのだろう。
さて、何の情報もないこのお城をどう攻略しようか――。
「とりあえず、2階に上がってみるか」
なぜ望夢が2階ヘ行くことを選択したか――。
そんなの決まっている。
たいていボスというものは建物の最上階にいるものと決まっているからだ。
途中、星奈、日向、月美に左右どちらの扉がいいか聞くと皆、左の扉を選んだ。
これに関しては特に理由はないだろう。
望夢はドアノブに手をかけて、ゆっくりとその扉を開けた。
その先に見えたのはまた同じような内装の部屋。
そして、見たところ誰かが待ち構えている様子はない。
ゲームの世界で考えるとしたら、この扉は当たりということになる。
だって、もしも間違った扉を開けたのならば大量の敵が押し寄せてくるはずなのだから――。
その後も望夢たちは扉を開けては進んで、扉を開けては進んでを繰り返した。
しかし、進む先々に人はおらず、ただ同じような内装の部屋が続くばかりだった。
まるで、さっきから同じ部屋を通っているような感覚だった。
「ねぇののくん――」
ふと、星奈が話しかけてきた。
「どうした?」
「――護琉さんが倒れたのってわたしのせい?」
モノクロームと出会した瞬間、星奈は大声をあげてしまった。
それをきっかけにたくさんのモノクロームが集まってきた。
おそらく、護琉はいろいろ作戦を考えていたはずだ。
しかし星奈がそれを台無しにしてしまい、さらに護琉に負担をかけてしまった。
星奈はそのことをずっと引きずっていた。
「別にあんなのおまえのせいじゃないだろ。どちらかというとモノクロームを倒さないという選択をしたまもの自業自得だろ」
「でも、あれは敵の数が多すぎたから倒せなかったんでしょ?もしも、敵の数が少なかったら――」
「じゃあ1つ質問。朝起きたら突如として周りが1面モノクロの世界になっていました。さて、おまえたちならどう思う?」
なぜかいきなり望夢が質問をしてきた。
質問の意図はよく分からないのだが、星奈は日向と月美とともに頭を悩ませた。
とりあえず、想像してみよう。
夜いつも通り家族におやすみと言ってベッドにつく。
そして、いつも通りの時間に朝起きて家族と楽しく会話をしながらご飯を食べる。
「いってらっしゃい」と家族に見送られながら扉を開くと、そこは1面モノクロの世界でした。
空も花も草も、そのすべてがモノクロに染められた世界。
そんな世界――。
「「「嫌に決まってる」」」
「だろ?まもはレインボー・ミレニアムの住人たちがそんな思いをしないように、あえて浄化しなかったんだよ。もちろん、事が済んだらちゃんと浄化する。だから、これはおまえのせいじゃないんだから、あんまり気にするな」
望夢は星奈の頭を優しく撫でた。
星奈の顔から不安な表情は消え去り、嬉しそうに口角をあげていた。
しかし、この理由は星奈を安心させるために作ったもの――。
本当の理由は、モノクロームから解放された住人たちの身の安全が保証されていないというものだった。
アピスとアペスがモノクロームとなり襲いかかってきたことは記憶に新しい。
さて、モノクロームとなり襲いかかってきた彼らはどのような最期を迎えただろうか――。
望夢は考える。
おそらくアピスとアペスはモノクロームに身体を支配されたがために命を落としたのではないと――。
モノクロームを浄化したと同時に呪いか何かが発動して、彼らは命を落としたのではないだろうかと考える。
つまり、理由は分からないがハクとコクはクールナイツを利用してアピスとアペスを処分した。
もしも、これがレインボー・ミレニアムの住人にも適用されていたら――。
だから、護琉はあんな無茶をしてでも守護の騎士としてレインボー・ミレニアムの住人を護ることを優先したのだと思う。
しかし、星奈たちが浄化したあともレインボー・ミレニアムの住人たちに息があったので、少なくとも彼らに呪いは施されてはいないということが分かった。
とりあえず、一安心である。
さて、そんなことよりもなぜだかすごく視線を感じた。
望夢が視線を感じた先に目を向けると、鬼の形相で睨みつけてくる日向と月美の姿があった。
理由は言われずとも分かる。
星奈の頭だけを撫でているからだ。
そう思っていたのだが――。
「護琉さんが倒れたのって最終的にはののくんのせいだよね?」
「うん、わたしも見てたからそう思う」
睨みつけられていたのは別の理由だった。
実はあのとき、護琉は望夢の隣で力尽きたから倒れたのではない。
望夢が護琉の脚をひっかけて無理やりこかしたのだった。
それを護琉が隠すようにきれいに話をまとめたことに納得がいかないのだろう。
「おまえたちも、あれだけたくさんのモノクロームを倒して偉いぞ」
望夢は日向と月美の頭も優しく撫でてあげた。
2人とも何か言いたげだったが、やはり嬉しいのか鬼の形相も嘘のように消え去り、2人とも口角をあげたのだった。
まったく、今は希望の騎士、夢の騎士、笑顔の騎士、祈りの騎士だというのに、これではいつもの望夢、星奈、日向、月美と変わらないではないか――。
ここに護琉がいたのならば「正義の味方としての自覚が足りない」と怒られていたところである。
「さぁさっさとメドゥーサなり、ハクとコクなりを倒してまもの悔しがる顔を拝みに行こうぜ!」
「って、話を逸らすな!」
「暴力反対!!」
「ってか、わたしそれ見てないんだけど?!めっちゃ見たかった!!」
わいわい喚く3人を無視して望夢は目の前の扉を開いた。
すると――。
「やっと来たか。ずいぶんと遅かったじゃねぇか」
「おまえは――」
視界に入ってきたのは、今までとは造りが違った大きな部屋だった。
そして、少し先には大きな椅子が3つ。
明らかにお偉いさんが座りそうな椅子である。
その1つにふてぶてしく腰掛けるのはハクでもなく、コクでもなく、ケルベロスだった――。




