#127 セピア・キングダムという国の実態
鏡を抜けた先はひたすらに続くモノクロの世界だった。
空も草木も土も、その何もかもが黒、白、灰のモノクロに統一されていた。
たが、不思議と星奈に驚きはなかった。
なぜなら、1度夢の中で見ていたからである。
しかし、この2人は違う――。
「嘘でしょ――」
「何、これ――」
想像を絶する世界を目にして言葉を失う日向と月美。
それぞれ、レレとララから話は聞いていたが、まさかここまできれいにモノクロに統一されているとは思わなかったのだろう。
「まさか、鏡の先が雑木林の中とはね」
「でも、目の前にボスのいるお城とかラッキーだろ?」
「だけど、残念ながら簡単にお城の中へは入れてくれないみたいだね」
そんな唖然となる2人とは対象的に、1度セピア・キングダムへと足を踏み入れた者たちはえらく冷静だった。
みつ葉の言う通り、どうやらクールナイツたちは雑木林の中へと出たらしい。
葉が覆い茂っているため、日の光が届かず辺りが薄暗い。
しかし、身を隠すのにはもってこいの環境なのかもしれない。
そして望夢の言う通り、今いる雑木林からは大きくそびえ立つお城が見えた。
あれがセピア・キングダムの王であるハクとコクが居城にしているお城だ。
さっさとあのお城に侵入してハクとコク、そしてメドゥーサを討てば世界の平和が守られる。
しかし、護琉が言うように現実は甘くはない。
お城の入り口には数人の兵士が立っている。
おそらく、あれもモノクロームだとは思うので簡単に倒せるだろうが、なるべく無駄な戦闘は避けたい――。
「ねぇ何でモノクロームは入り口付近にしかいないのかしら?」
みつ葉の言うとおり、モノクロームはなぜか入り口付近にしか配置されていない。
もしも、本当にクールナイツを警戒しているのであればお城の外周すべてをモノクロームで埋め尽くすこともできただろうに――。
「へぇこれはある意味チャンスか?とりあえず、守りの薄いところから入ってみるか」
「いや、ここはあえて入り口から堂々と入るべきだと思う」
護琉は考える。
これだけ守りの固いところと薄いところがあるのは明らかに不自然であると――。
おそらく、これはハクとコクが仕掛けた罠。
守りが薄い先をあえて選ばせておいて、その先でアルタイル、ベガ、デネブ辺りにクールナイツの始末をさせるつもりだろう。
まぁこの3人ならばまだ戦っても勝機は得られるだろう。
これがケルベロスやフェリスと出会してみろ――。
おそらく、とてつもない戦闘へと発展するはずだ――。
「じゃあ、まずはあそこのモノクロームをなんとかしないとな」
「護琉の矢であの兵士たちを浄化しちゃえば?」
「いや、ここで騒ぎを大きくすると増援を呼ばれる可能性がある。だから――」
という具合にサクサクと話を進める先輩クールナイツたちを後輩クールナイツである星奈、日向、月美はただ後ろから見守ることしか出来なかった。
今なら望夢が星奈たちを置いて行きたかった理由が分かる。
完全に足手まといである。
でも、こんな足手まといになると分かっていても護琉は星奈たちをセピア・キングダムへ連れて行こうとした。
みつ葉も言ってくれた。
この6人で愛華を助けたいと――。
護琉も同じ考えを抱き、その上で星奈たちに手を差し伸べてくれたと勝手に思っていた。
だけど、もし護琉の考えがスターたち3人を生贄にして愛華を救い出すというものだったのならば――。
そんな恐ろしい考えに襲われる星奈の肩を何者かがトントンと叩いた。
星奈は何を疑うこともなく後ろを振り返った。
てっきり、日向か月美に肩を叩かれたと思ったからである。
しかし、星奈の真後ろにいたのはとりあえず全然知らない人だった。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
あまりの驚きに星奈は転倒した。
その星奈の叫び声に一同はビクッと身体を震わせた。
星奈の肩を叩いた者――。
その者の肌は白粉を塗っているのではないかというほどの真っ白。
そして、額には鍵穴が――。
間違いない。
これはモノクロームである。
よく見たら、雑木林の木の陰からわらわらと人々が姿を見せていた。
もちろん、肌の色は黒、灰、白。
そして、額には鍵穴。
残念ながら、これも全てモノクロームだ。
「あーら、どうりでお城周りの警備が薄いわけね」
どうやら、ハクとコクにはクールナイツが現れる場所を特定されてしまっていたらしい。
さて、さっさと目の前のモノクロームを浄化しないと襲われるのが確定なのだが、腰を抜かした星奈は動くことすら出来なかった。
『怖がらないでほしいでしゅ――』
落ち着かせるためなのか、ミミが語りかけてきた。
『彼らは元はレインボー・ミレニアムの住人なんでしゅ』
――えっ?
日向と月美もレレとララから同じことを聞いたのだろう。
目を丸くしてモノクロームたちを見ていた。
「まったく余計なことをしてくれたね。走るよ!!」
「ちょっと待って!!」
護琉の言葉に対して月美が異を唱えた。
「今ここにいる人、すべてレインボー・ミレニアムの住人なんですよ?!そんな彼らを放っておくなんてできるわけないじゃない!!」
「――君はバカなのか?」
護琉は月美を睨みつけたまま言葉を続ける。
「こんな数を相手にしていたらこっちの体力が保たない。そのぐらい考えたら分かるだろ?」
「だからと言って放っておけないわ!!」
「じゃあ、勝手にしろ。行くよ、みつ葉」
それだけを言うと、護琉は勢いよくその場をとび出した。
「こら!勢い良くとび出さないの!!」
みつ葉も護琉の後を追いかけるように飛び出していく。
「他人のことが心配なのは分かるが、その前に自分のことを大切にするんだな――」
望夢からのすごく厳しい言葉だった。
だけど、その言い方はとても優しかった。
「できれば、今のうちに逃げてくれると助かるんだけどな――」
望夢はついでのように言うと、星奈たちの顔を1度も見ることなくみつ葉と護琉の後を追いかけるのだった――。
さて、依然としてモノクロームは増えていく一方である。
きっと、レインボー・ミレニアムの住人たちもモノクロームに身体を蝕まれて苦しんでいるであろう。
早くモノクロームから解放してあげたい。
だが、こんな数をたった3人で浄化しきれないことも分かっている。
気がつくと、あっという間に周りを完全にモノクロームに囲まれてしまっていた。
これでは、たとえ鏡が無傷でも逃げ出すことすら出来ない。
星奈、日向、月美の3人はどうしようもなく、その場に立ち尽くすことしか出来なかった――。




