#10 クールナイツに選ばれた理由
さて、月美もまた今回の一件について話をしていた。
「それで、ララちゃんは気がついたからここにいたのね?」
「うん、そうだよぉ」
月美があの日出会ったクマはララという名前らしい。
紫色の毛並みをしており、非常にマイペースなクマであった。
「あの部屋に逃げ込んだおかげでララちゃんと出会えた――。そして、わたしは祈りの騎士となりお兄ちゃんたちを助けることが出来たんだね」
「そうだよぉ」
謎の少年と戦っていた祈りの騎士の正体――。
あれは、実は月美であったのだ。
あの時は孤独が怖くて泣いていた。
そんな時にララが手を差し伸べてくれた。
月美はその手をとっただけなのに、気がつけば祈りの騎士という訳の分からない存在に変身して謎の少年と応戦していた。
やがて少年が立ち去ってくれると、一気に恐怖が押し寄せてきて身体がガタガタと震えたものだ。
手にしていたロットも支えきれず、思わず地に放ってしまった。
少しして、望夢が姿を現してくれたときは安堵から涙があふれ出てしまった。
事務所の人たちも全員無事であると聞かされて、さらに大粒の涙があふれ出てしまった。
そんな月美に望夢は少々戸惑っていたが、それでも優しく抱きしめてくれた。
ちなみに、望夢が姿を現した時には変身は解かれていた。
ララがこっそり変身を解いてくれたらしい。
だから、月美が祈りの騎士ということは望夢は知らない。
つまり、これは月美とララだけの秘密である。
「ねぇ。もしもあそこでララちゃんと出会ったのがお兄ちゃんだったら、お兄ちゃんがクールムーンになってたのかな?」
「うんとねぇ、それは違うかなぁ?」
ララは月のコンパクトを月美の前まで運んだ。
運んだのはわずか10cmほどなのだが、あたかも長距離を移動したかのようにララは汗を拭い、そして呼吸を整えた。
「クールムーンは祈りの騎士なんだよぉ」
「そういえば、あの時もとっさにそう名乗ってたっけ?でも、何でわたしが祈りの騎士なんかに選ばれたのかな?」
「――月美ちゃんは何でパパのお仕事を手伝っているのぉ?」
また、月美の質問を無視するララ――。
ララの言うお仕事とは主演が決まった新人声優たちに会うことだろうか――。
「あれはただ、こんなわたしでも会うことによってその人が幸せになればいいなぁと祈ってるだけで――」
「その祈りの強さがぁ、きっとぉ月美ちゃんがクールムーンに選ばれた理由だよぉ」
ララ曰く、スピリットアニマルとそのパートナーの想いがひとつになったときに初めてクールナイツが生まれるという。
あの時の月美はモノクロに染められた人々を救ってほしいと強く祈っていた。
おそらく、その祈りが月美とララを祈りの騎士に変身させたのだというのだが――。
ただ、そんな軽い理由で祈りの騎士に選ばれてよかったのかとも思う月美であった。
「ふーん、そうなのね。でも、これからも1人であのような怪物と戦うことになると思うと自信がないわ――」
月美の呟きにララはコクンと首を傾けた。
「何で1人で戦おうとするのぉ?」
「だって、クールナイツってわたしだけでしょ?」
ララは先程とは反対の方にコクンと首を傾けた。
「誰もクールナイツが1人って言ってないよぉ?」
「えっそうなの?!」
確かに、今までの会話の中でララがクールナイツは月美ただ1人だとは一度も言っていなかったような気がする――。
「ボクたちはぁ、途中で離れ離れになったのぉ。でもぉ、ボクの仲間もきっといいパートナーを見つけてるはずだよぉ。だから、頑張って仲間を探そぉ」
「ララちゃんのお友だちってどんな子たちなの?」
「えっとねぇ――」
コンコンコン――。
誰かがドアをノックした。
「月美、入るぞ?」
どうやら、タイミング悪く望夢がやってきてしまったらしい。
「お兄ちゃん?!ちょっと待って!いい?お兄ちゃんの前ではぬいぐるみのふりだよ?」
ララはコクンと頷き、ピタッと動きを止めた。
やがて、ガチャっという音と共に望夢が姿を見せる。
「誰かと話してたのか?」
「ちょっとお友だちと電話してたの――」
えへへと笑いごまかす月美――。
だが、望夢はそんな月美よりもララの方に興味があるらしい。
机の上で頑張ってぬいぐるみのふりをしているララを、望夢はじっと見続けた。
「そいつはどこで見つけてきた?」
「えっ?えっと、その――。そう、星奈ちゃんがUFOキャッチャーで取ってきてくれたの!」
「そのコンパクトは?」
「これは、ひぃちゃんからで――」
「へぇ――」
望夢は何か疑うような目でただただララを見ていた。
――ララちゃん、耐えられるかな?
「で、お兄ちゃんは何しに来たの?」
「あぁそうだ。早く寝る用意しろよ?夜更かししてるのが見つかったら母さん怒るぞ?」
「そんなこと、分かってるもん――」
月美はプクっと頬を膨らます。
てっきりその頬をつつかれるかと思ったのだが、その代わりに望夢は優しく月美の頭を撫でるのであった。
「おやすみ――」
望夢は優しく耳元でそう囁くと、そのまま部屋を出ていってしまった。
てっきり、いつものようにじゃれあうとばかり思っていた月美は拍子抜けした。
「あっララちゃん。もうぬいぐるみのふりはやめていいよ――」
月美が振り返ると、ララは瞼に涙をためて流さないように堪えていた。
「えぇ?!ごめん、そんなにもぬいぐるみのふりがしんどかった?!お兄ちゃんが怖かった?!お兄ちゃんは優しい人だからララちゃんをいじめたりしないから大丈夫だよ?!」
「うん――」
月美はララを抱き抱え、頭をさすった。
とうとうこぼれ落ちた涙はとても温かかった――。
ララ
レインボー・ミレニアムのプリンセスの1人、シィに仕えるスピリット・アニマル




