#103 仲間の正体
いつの間にか空を覆い隠していた灰色の雲はなくなり、雨もやんでいた。
だが1度に降った雨の量が多かったのか、そこら中に水溜まりが出来ていた。
クールナイツへと変身した星奈、日向、月美はそんな水溜まりなど気にせず、愛華と3人のクールナイツが消えていったと思われる方向へ走った。
そんな中で目に入ってくるのが大量の石像だ。
何個も積み重ねられたり、水溜まりの中に放り込まれていたりとひどい扱いだった。
そして、その表情はすべて恐怖に怯えていた。
なぜなら、この石像はもとはモノクロームのあの厄介な能力で石に変えられてしまった人たちなのだから――。
まだ石像の呪いが解けていないということは、愛華はまだ浄化されていないということ――。
早く止めなければ、全人類が石像と化してしまう――。
そんなことを考えながら走り続けていると、やがてとある人物が目に入ってきた。
ここからでも分かる。
まだモノクロに染まってはいない。
ということは、愛華から逃れた者たちだろうか――。
さらに近づいてみると――。
「――えっ?」
そこにいたのはまさかの仲間である癒しの騎士だった。
何があったのか、全身泥だらけでかつボロボロだったが――。
そして、すぐ隣には壁に背中を預けて苦しそうに呼吸をする護琉の姿があった。
そんな護琉の手を癒しの騎士は優しく握りしめていた。
「護琉さん、大丈夫ですか――」
「触らないでよ!!」
護琉へと手を伸ばした星奈の手を癒しの騎士は勢いよく払いのけた。
「誰のせいでこんなことになったと思ってるのよ――。あんたたちが、あんたたちがさっさと愛華を浄化してくれたら、こんなことにはならなかったのに!!」
癒しの騎士は泣きながら叫んだ。
癒しの騎士の言う通り、愛華を浄化するタイミングはいくらでもあった。
なのに、星奈たちは目の当たりにした現実から目を反らした――。
その結果が護琉を、街の人たちをも危険に巻き込むことになってしまったのだ。
「なんであんたたちがクールナイツなんてやってるのよ――。目の前の敵すら倒せないあんたたちがなんでクールナイツに選ばれてるのよ!!」
癒しの騎士の言うことは正しい。
だからこそ、星奈と月美は何も言い返せなかった。
しかし、日向だけは違った。
「その言葉、そっくりそのままあなたにお返ししますよ」
「――は?」
癒しの騎士は日向を睨み付けたが、日向は怯むことなく言葉を続けた。
「だって、愛華さんを浄化出来なかったのはあなたもですよね?なんで、そんなあなたがクールナイツなんてやってるんですか?」
「ふざけないでよ――。目の前の敵を指を加えて見ていたやつが大口叩かないでよ!!」
「 。あんまり挑発に乗るなよ――」
ふと、現れたのは希望の騎士だった。
彼もまた泥だらけでかつボロボロだった。
「そいつは大丈夫か?」
「さっきまで発作が出て息苦しそうだったけど、あたしの能力で今は落ち着いてる。だけど、当分動くことは無理そうね」
「おまえはまだ動けるか?」
「残念ながら、この能力のおかげであんたよりかは元気ね」
「――そうか。おまえら3人はここでこいつを守ってくれ」
それだけを言い放つと、希望の騎士は星奈たちに背を向けた。
しかし、その手を掴まれた。
「ねぇ。なんで、あたしたちと一緒に戦おうとはしてくれないの?」
日向である。
「どうせ、今から愛華さんのところに行くんでしょ?だったら、どうしてあたしたちを連れてはいってくれないの?」
日向の言葉に希望の騎士は面倒くさそうにため息をついた。
そして、日向の顔も見ずこう言った。
「――人助けも立派な正義の味方の仕事だろ?」
「そう言う口実であたしたちを守ってるつもりなんだ、ののくんは――」
名前を呼ばれた希望の騎士は目を丸くして日向を見た。
しかし、すぐに目を反らした。
「ちょっと待ってよ、ひぃちゃん――」
「希望の騎士の正体が、お兄ちゃん?」
星奈と月美は希望の騎士をまじまじと見つめた。
目覚めた仲間は意外と近くにいるかもしれないと思ったときはあった。
しかし、それがまさか1番近い存在である望夢だったとは――。
信じられないが、希望の騎士の反応を見る限り正体が望夢なのは間違いないみたいだ。
「ちなみに、そこでやけにあたしたちに突っかかってくる癒しの騎士がみつ葉さんだよ」
まさか、癒しの騎士までもが身近な人物だったとは――。
では、もしかして守護の騎士の正体は――。
「ののくんもみつ葉さんもあたしや星奈、つきみんの正体分かってるんでしょ?そんなあたしたちのことを心配してるのかもしれないけれど、心配無用だから。だから、あたしたちも連れていって――」
「――おまえ、何を勘違いしてるんだ?」
望夢は勢いよく日向から手を振り離した。
そして、今度は日向を睨み付けてこう言った。
「じゃあ正直に言ってやるよ。目の前の敵すらまともに倒せないやつを連れていっても邪魔なだけなんだよ。自分を守ることで精一杯なのに、おまえらまで守ってられるかよ。あーあ、ほんと何で足手まといなおまえらがクールナイツなんてやってるんだろうな」
望夢は呆れたようにまたため息をついた。
その表情はいつも笑ってくれている望夢とは、まるでかけ離れていた。
本当に、希望の騎士の正体が望夢なのかと疑いたくなるほどに――。
「――本当にそう思ってる?」
「あぁ心の底から思ってる」
「じゃあ何で四季の国であたしたちを助けてくれたのよ?!戦いながらもあたしたちを守ってたじゃない!あれはフェリスたちが自分たちよりも弱いと確信してたからなの?!」
「何、お門違いなことを言ってるの?あたしたちがあなたたちを守った?笑わせないでよ」
先ほどまで無言だったみつ葉が急に口を開いた。
「もしかして、みつ葉さんも四季の国でわたしたちを助けてくれたんですか?」
「あたしたちが必死で守ったのは、スピリット・アニマル。別にあなたたちじゃないわよ」
「――嘘ですよね。何でそんな照れ隠しみたいなこと言うんですか――」
星奈は声を震わせながら、問いかけた。
今にも泣き出してしまいそうである。
「あなたたちが倒れてもスピリット・アニマルさえいれば、代わりはいくらでも探せるからね。――のの、早く行きましょう。こいつらと話してるだけ時間の無駄よ」
みつ葉は3人の顔を見ることなく、背を向けて歩き始めた。
望夢も何も言うことなく、歩き始めた。
「お兄ちゃんはわたしたちが心配で気が気でないんだよね?だから、心を鬼にしてるだけなんだよね?」
月美の問いかけで、望夢は足を止めた。
「俺の使命はハクとコクからレインボー・ミレニアムを取り戻すこと――。おまえたちをモノクロームから守ることじゃない。おまえらがモノクロに染まろうが、ケルベロスたちにやられようが俺には関係ない。スピリット・アニマルさえ無事なら何も思うことはない――」
それだけを言うと、望夢は歩き始めた。
「ミミ、レレ、ララ。あんたたちも考え直しなさい。その子たちではレインボー・ミレニアムを救えない。本当にレインボー・ミレニアムを救いたいのならば、その子たちとは手を切るべきね――」
そうして2人は静かに姿を消していった――。




