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社会の歯車と異世界の歯車


「ふう。今日の晩飯もコンビニ弁当にすっかなー。動画サイトでも新商品レビューされてたしな。」


そう呟きながらスーツ姿で中肉中背、ミディアムショートの黒髪に悲壮感漂う後ろ姿。

仕事場から東京の品川駅に向かって歩いているのはこの俺、柊壮太だ。

田舎で生まれ育った俺は都会での生活に憧れ、2年前に上京してきた。まあまあの企業に内定をもらい幸運にも東京の品川にあるビルで働くことになったときは半狂乱になりながら喜んだものだ。

これでやっと俺もシティボーイの仲間入りだ!おしゃれなカフェでランチを楽しみ、毎晩ワイン片手に趣味のRPGゲームに没頭できるぜ!・・・と思っていた俺が馬鹿だったというか、社会人を舐めていたというか。


現実は残酷だという言葉があるがまさにその通りだと実感した。いや残酷というほどでもないところがリアルに俺の目から輝きを失わせることになった。


仕事は毎日定時帰宅できるはずもなく。死ぬ気で効率重視して定時ギリギリに終わったと思ったら

上司から「今日飲み行くぞ」と居酒屋に召喚魔術をかけられ、憧れていたおしゃれなランチもコスパとスピードを兼ね備えたコンビニ飯にいつのまにか変換操作され。そんな日々を約2年間続けている。


「おっ唐揚げ弁当50%オフじゃん。あーでも昨日もこれ食ったっけか。まあコスパ良いしこれでいいか。」

社畜として歯車になった俺はいつのまにか『コスパ良い』が口癖になっていた。


品川駅近くのコンビニを出た俺はその足で中古ゲーム屋に寄ることにした。駅から電車で5分のところに自宅があり、品川駅周辺にあるコンビニと中古ゲーム屋だけがこの東京砂漠で乾ききった俺の心に潤いを与えてくれる。さながらオアシスといったところか。言ってて悲しくなるわ。


ゲーム屋に入ると、慣れた足運びで中古ゲームの攻略本が積まれている『全品300円コーナー』にたどり着いた。コンビニからこのゲーム屋に行くのは日課になっている。中古ゲーの攻略本を集めコレクションしそれを眺めながらゲームをクリアしていく。これが俺にとっての唯一の趣味といっても過言ではないだろう。

今日も地獄の社会人生活というゲームをクリアしお宝がないか漁っていると、一番下の段にホコリをかぶっている広辞苑くらいの本を見つけた。


「これなんだ?攻略本か?」


下の段からその本を無理やり引き抜き、ホコリで見えない・・というか劣化して削れている表紙をスーツの袖で軽くぬぐってみると本の名前がかすかに読める。


『《異世界》完全攻略ガイド』


・・・異世界て。どんなゲームだよ笑。最近流行ってる異世界転生モノの小説とか漫画やアニメにでてくる異世界か?主人公が最初から最強で魔法とか剣術とかバンバン使って、可愛い女の子がキャーキャー言って気づいたらハーレム状態になってるあの異世界か?おっと、具体的過ぎたようだ。これくらいにしておこう。


「あれ?これ開かねえぞ。どうなってんだ?」


本の中身を少し確認しようと手に力を入れてみたがびくともしない。まるで全ページ瞬間接着剤で固定されてるみたいだ。


「うぎぎぎ!うぐぐぐ!」


狂気じみた声を発しながらでかい本と格闘しているスーツ姿の男を気味悪そうな目で見ている客と目が合い、恥ずかしくなった俺は電光石火でその本を300円で購入しそのゲーム屋を後にした。500円玉を出した後の200円のおつりがいらないと思ったのは人生で初めてだった。


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