4.森の歌
村からそう離れていない森を、人々は深緑の森と呼ぶ。
その名の由来は簡単だ。
鬱蒼と茂った草木。
だが、それらは暗い闇を生むのではなく、不思議と暖かい深い緑の淡い空間を生むためだ。
その理由は魔素量が他の地とは比べ物にならないほど多いからだと言われている。
この地に私たちは良く森の恵みを分けにもらいにやってくる。
私たちというのは、村の子リッド、アリス、アベル、そして私だ。
「シア。サボってないで手伝えよ」
リッドが木の実を積んだカゴを持って私を睨んだ。
そのカゴの中は、まだ半分もいっていない。
対して私のカゴの中はもう入らないほどの木の実や山菜、薬草の類が入っている。
そのカゴを微笑みながら見せると、うぐっと言葉を詰まらせた。
「シアちゃんは本当につむの早いよね!」
リッドの背後からひょこりと顔を出したアリスは言った。
アリスのカゴの中もリッドよりは多いがまだまだ余裕がある。
「運動神経はないのにね」
そのまた背後で笑いながら山菜をつみ、いうアベル。
その言葉に私は半眼になってアベルを睨みつけるが、彼は気づかないふりをする。
「ま、シアは体力ないし、休んでるといいよ」
アベルは本当に一言多いわよね。
だが、そう言ってもらえて助かる。
この妖精さんの体は本当にどんなに修練をつんでも、体力と筋力がつかない。
あのロイが苦笑いを浮かべて匙をなげるほどだ。
「リッド。お前はサボるなよ」
「あー!もうわかってるよ!ったく、どんなチートだよ」
私が休んでいた森の精霊のポケットと呼ばれる、時折生まれる緑にかこまれた空間からリッドはぶつぶつ文句言いながら離れた。
「アリス」
彼が離れたのを確認してから、私たちより少し年下の少女の名前を呼んだ。
「なに?」
「内緒だよ」
そういって、自分の背後に隠していたカゴに入りきらなかった森の恵みを彼女のカゴに入れてあげた。
「うわぁ!すごい」
「しー。アベルとリッドに見つかったらうるさいわ。」
「シアちゃんは本当に精霊さんに愛されてるね」
精霊に愛される。
自然の恵みを与えられることを、彼らは精霊に愛されているというが、からくりを言えばなんてことはない。
人や物にはそれぞれ特有の魔素による波動がある。
私はその波動を察知するために、森に入ると自身の体内にある魔素を練る上げ、周囲に放つ。
それらの反射により、何がどこにあるかをある程度察知することにより、効率よく木の実や山菜を採っているのだ。
原始的な探索魔法の一種だ。
本当に魔法というのは便利だ。
プログラムはシステムの中でしかその真価を発揮しないが、この世界はいうてしまえば大きなシステムの中にいるみたいなものだ。
精霊に愛されているというなら、アリスの方が愛されていると思う。
私の探索魔法はなにも、物理的なものだけに効果を発揮するのではない。
彼女の周りにはいつも目に見えない何かがある。
それらは時に彼女を守り、時に彼女の手助けをしているように見える。
(きっとこの何かが、精霊なのだろう)
ただ、アリスはその存在を認識できないが、彼女があることをすれば別だ。
「ねぇ、アリス。あの歌を歌ってくれない?」
「あの歌?」
原始の歌
「うん。いいよ。」
にこりと笑って、彼女はその美しい鈴のような声で歌った。
―――――――――
ここに照らそう
命の火を
ここに明かそう
命の証を
エステルの光よ
照らせ悠久の光を持って
オプスクリータスの闇よ
陰れ滅びの運命よ
ここに隠せ
亡びの刃を
悲しみの全てを
祈り讃え共にあらんことを
終焉の光よ
原始の闇よ
無より生まれし光よ
有より生まれし闇よ
全てを照らせ
全てを隠せ
―――――――――
アリスの歌声に木々が穏やかに揺れる。
彼女は気づいていないだろうが、彼女の周りにはまとわりつく、何かの数は彼女の歌により明らかに増えている。
「アリスはいい精霊術師になりそうね」
「えー。シアちゃんには勝てないよー」
「私は魔素の扱いが上手いだけよ。」
きっと同じ契約式を書いたら、アリスの方が発動まで時間がかからないだろう。
そう、愛される筈がない
「?」
「どうしたの?シアちゃん」
「ううん。なんか、ちょっと変な考えが…」
愛される筈がない?そう思ったのは何故だろう?
「どうかした?シア」
様子がおかしい私に気がついたアベルが心配そうにこちらをみている。
「なんでも、無いと思う。。。」
「もう帰ろうか。あんまり遅くなってもロイが心配する。今日の収穫はシアの分だけでも十分だろうし」
「えー。俺全然つめてないよー。母ちゃんにどやされそう。。。」
「僕の分をあげるよ。僕たちはシアがとってくれたのだけで十分だろうし」
アベルの申し出にリッドは目を輝かせた。
「シア。歩ける?」
心配そうに、アベルが手を差し出す。
こんなに気にかけられているのに、何故さっきはあんなことを思ったのだろう。
シアはかぶりを振って、先ほどの暗い気持ちを振り払った。
「平気よ。アベルは本当に心配症ね」
「心配もするよ。僕たちは家族だからね」
アベルの手に自分の手を重ねて、シアは微笑んだ。




