2.新しい生活
「温めたミルクだけど、飲めるかい?」
そういって鷲色の髪の男性に微笑みながら木のコップを差し出してくれた。
「ありがとう、、、ございます」
外見年齢は、30前半くらいのその男性は、私のたどたどしい礼に微笑みながら、
向かいの席に座った。
「私はロイ。ここで牛や羊を飼って牧場をやっているんだ。そのミルクはうちの牛の乳だよ。名前は言える?家はどこかわかるかな?」
男性・・・ロイの質問に、首を横に振った。
「汚れてはいるけど、身なりを見ると、どこかの貴族のご令嬢のようだと思うんだけど・・・なぜあんなところに一人でいたのか教えてくれるかな?」
「分かりません。気がついたら、あの場所にいて・・・」
そのさきの言葉をなんて言えばいいのか分からず、ロイがくれたホットミルクを口に含んだ。
しぼりたての牛乳というのを初めて飲んだが、不思議な甘みがあるものなのだと思った。
それと同時に味覚はやはりあるということは、夢オチでもないことがわかる。
「そっか。ま、いつかお迎えが来るだろう。それまでうちにいれば良いよ」
「え?」
なんたるラッキーパンチ。
救いの神とはこういうものか。
「名前がないのは不便だね。うーん、そうだね。君はシンシア。今日からシンシアだ。」
それから私はロイの遠い親戚の子ということで、彼の養い子として世話になることになった。
ロイは数年前に奥さんと娘さんを亡くしてから、義理の息子と2人でこの小さな牧場で生活をしているそうだ。
ただ、飼っているのはヤギ二匹、牛二頭、ヒツジ五頭、馬一頭。
牧場というにはあまりに少ない。
人1人生きて行く分には十分なのかもしれないが、これだけの世話なら午前中だけで終わってしまう。
午後はまるっと開いているのかと思えば、彼は近くの村の子たち相手に魔法の授業を開いていた。
魔法。
その言葉は知っていたが、初めて目にする。
この世界には精霊、魔力、神力というとのがあり、それらの力を使いこの世界に影響を与えることができる。
ただ、それらの素をたどれば、それは魔素といわれる空気中に漂う空気のようなものらしい。
私もその授業には参加させてもらっている。
魔法の授業の他には、歴史、読み書き、ときおり武術の訓練も見ているようだ。
「シアー。喉乾いたー」
そう言ってドアから入ってきた汗だくの少年。
アベルは、10歳になるロイの義理の息子だ。
黒髪短髪、程よく焼けた小麦色の肌は、ところどころ擦り傷があり、きっとロイの訓練を受けていたのだろう。
泥だらけの彼の服装をみて、私は眉間にシワを寄せた。
「アベル。泥は家に入る前に落としてって何回も言ってるじゃない。」
「シアは口うるさいなー。それよりも水ー!キンキンに冷えた水飲みたい」
ちょっと泥をテーブルにつけないでよ!
と言ったところでこの少年はこうなっては言うことを聞かないことを私は知っている。
ってか井戸は家の裏にあるんだから、帰ってくる前に自分で組んできなさいよ。
そんなことは百も承知で目の前の少年はだだをこねてる。
つまり、彼が求めてるのは冷えた井戸水ではない。
小さく嘆息して、私は自分の小さな指で空に文字を書いた。
すると目の前にあった、ジャーの表面に水滴がつく。
その様子をみて、アベルはニヤリと笑ってその中に入った水を飲んだ。
「っかーーー!うまーい!!!やっぱり訓練の後のシアの水は最高だよ!」
「こら。アベル。シンシアにまた無駄な魔法使わせて。」
ちゃんと泥と汗をおとしてきてから入ってきたロイにアベルは軽く小突かれる。
「だって、シアの出してくれる水は井戸水なんかよりずっと美味しいんだもん」
そういうことじゃなくてだね。。。
ロイが呆れて苦笑した。
「別に平気よ。これくらいなら」
本当にどうってことはない。
私のこの妖精さんのような体は、魔法ととても相性がいいらしく、コップ一杯の水を出すのも普通の人なら井戸まで組みに言った方が楽だと思うらしいが、私は少し精霊に願えば出すことができる。
それと
アベルに向かって空に文字を書くと柔らかな風が彼の体から泥と汗をとばす。
そして、その泥と汗は私が手を叩くと消えた。
「シアってほんとすげーな!運動はからっきしなのに」
ニコニコと嬉しそうに笑うアベルに半眼で睨んだ。
ここに世話になって2年。
ロイから色々と教えを請うたが、魔法に関してはロイですら舌を巻くほどの才能をみせたが、運動についてはからっきしだった。
走ればコケ
何もないところでコケ
前を向いてたはずなのに木にぶつかる
ある意味天才だと私は思っている。
ただ、魔法は違う。
これは、前世のプログラムとよく似てる。
魔素の返還式、契約式は理論の上に成り立っている。
「アベルのアホ。アホベル」
「なんで!?褒めたのに。。。」
褒めてないわよ。さっきのセリフは。
ロイに借りてた魔法の本を閉じて、椅子から降りた。
「もうこんな難しい本を読んでるのかい?シンシアは本当に賢いな」
閉じた本の表紙をみて、ロイは驚いた。
「でもたまには、外で遊ばないとダメだよ。ほら、僕は夕飯の準備してくるから、アベルとあそんでおいで。」
えー…
「シア!川行こう!川!」
ロイの提案にアベルはヤル気まんまんだ。
そして私は知っている。
こうなったアベルは何が何でも私を川に連れて行く。
「「あーベーるー!しーあ!!あーそーぼー!」」
そして家の外から聞こえる、ユニゾンする声。
赤毛の少年リッドと栗色の髪の少女アリスだ。
アベル、リッド、アリスが団結したらもう逃げ場はない。
仕方ない。ここは童心に帰るしかない。
「魚何匹取れるか競争よ。」
本を本棚に戻して、そういうとアベルは本当に嬉しそうに笑った。
こんな感じで私のこの世界での2年は穏やかにすぎていった。




