村の祭り
イーサン達との戦いを終えた後、アンドレア達は子供達をおんぶして村へと向かった。流石に子供6人で精一杯だったので、イーサンには自分で歩いてもらった。
洞窟の入口前を通ると、アリシアは
「子供達だけでこんな所来たのかあ……。怖かったよねえ……。偉いなあ」
「せっかく勇気を振り絞って行ったのに、中にはこんな婆さんがいたギンとはね」
「なんだい私が悪いことしたみたいじゃないかィ。ウィヒヒヒ……」
「したみたいじゃなくて、したんだよ婆さん! 」
「たくうるさい坊やだねェ……。もうしないから静かにしな」
「そうだよ。静かにしなきゃダメだよ、アンドレア」
「なんでお前はその婆さんの肩を持つんだよ! お前、さっきまで敵だったんだぞ! 」
「もうしないって。なんだかそういう気がするから」
「嬢ちゃんは分かってるねェ。偉いよォ。将来はいいお嫁さんにでもなりそうだねェ……」
「ありがとう! おばあちゃん! 」
「なんで打ち解けてるんだよ……」
呆れてしまった。なんでだよ。さっきまでの俺の奮闘はなんだったんだよと言いたくなるぜ。
「やっぱクソガキだわ」
「なに?! それってあたしのこと?! 」
「さあね」
歩く足を早めた。
「こら! 待ちなさいよアンドレア! 」
ほんとこいつ生意気だわ。頭の中どうなってんだ?もう少しは可愛らしいところ見せてくれよ。
「坊や、ワタシはもう子供達を生贄にしようだの言わないよ。約束するさ。ウィヒヒヒ……」
本当かよ。と思い、
「まあ、婆さんをどうするか決めるのは村の人達だからな。俺達じゃねえ」
「そうかィ。まあ、どうなるかお楽しみだねェ……」
「アンドレアよ。もう着く頃合いだ」
ガードナーがやっと口を開いた。
ボア村に着く頃には、もうすっかり日は落ちていた。子供達をおんぶした俺たちを見て、村人達はホッとしたり人もいれば、帰ってきたことへの歓喜の声をあげたりしていた人もいた。
「良かったなあ! レンが帰ってきてくれて! 」
「ジョン! 母さん心配したんだから! 」
そして一通り子供達に声をかけた後、アンドレア達や子供達の他に、もう1人いることに気付き、それを見ると、1人の村人が驚きの声をあげた。
「イーサン婆さん?! なんで子供達といるんだ? 」
「イーサン婆さんだって? 何年ぶりだよ! 」
「何してたんですか今まで? 」
アンドレア達がどういうことか分かりかねていると、
「久しぶりだねェ……。ウィヒヒヒ……。なあに、暇つぶししていただけだよ……」
「まさか婆さん、また子供達に何かしたんじゃ……」
ここでいう「何か」というのは、生贄ほど重いものには聞こえなかった。
「ウィヒヒヒ……。まあ、ちょっとしたイタズラだよ……」
「なんだよイーサン婆さんまたかよー! 」
「私たち心配したんですからね!! 」
「怒るでないよ。子供達に手を出しとらん」
「まさかこの婆さん、常習犯だったんじゃ……」
アンドレアは言う。こんな婆さんの暇つぶしのためにバケモノに殴られ続けたのか……。
怒りより呆れが先に出る。膝から崩れ落ちる。今日はなんて厄日なんだ。
「まあまあ! みんな無事だったんだし! ね! 」
アリシアはアンドレアに笑顔を見せる。流石に不憫に思ったのだろうか。その優しさをいつも見せてくれ。
「イーサン婆さんも戻ってきたことだし! そろそろ祭りを始めるか! 」
村の大男がそう言うと、村人はオー! とそれに続いた。
子供達はイーサンに眠らされる前に既にお供え物を持っていた袋にしまっていたようだった。こんな小さなものがお供え物なのか、と思ったがイーサンによると、
「ウィヒヒヒ……。神様はそんなケチじゃないよ……」
とのことらしい。あの婆さん、ネコババしてないだろうな……。
村長らしき人が神様の像の前に出て跪き、
「ボアの神様よ、今年も村は平和でした。どうか、これからも我々を御守りくだされ……」
といい、お供え物を置いた。こうしてお祭りは始まり、皆飲み食いしていた。
ギンもアリシアも楽しそうだった。もちろん、俺も楽しんでいた。ガードナーは……マスクで分からないが、リズムは指で刻んでいた。
「アンドレアよ」
ガードナーのおっさんが声をかけてきた。
「どうしたんだ、おっさん」
「アリシアが、こんなに楽しそうなのは久しぶりだ。それもお前と出会ってからだ。礼を言わせてくれ」
「いいって、そんなもん。あいつを自由にして初めて、本当の笑顔が見れるんじゃないか」
「そうかもしれん。だが、私にはあんな顔を作ることは出来なかった。だから、お礼を言わせてくれ」
「そうかい」
「あと、アンドレアお前のことについてだがな……」
「なんだ? 」
「キノコ売りとやらをしていた前は、何していた?お前は実は……」
「その話はまた今度にしてくれ。祭りを楽しみたい」
ガードナーのおっさんの返答を待たずしてその場を去った。おそらくあのおっさんは、俺の正体について勘づいているんだろう。だが、今は思い出したくない。
「おい、アリシア」
「あ、アンドレア! どうしたの? 」
「別に。ただ、楽しんでるのかなって思ってさ」
「うん。楽しいよ。村の人、みんな笑顔で歌って叫んで語り合ってて。あたし、こういうこと今まで無かったからさ」
「話なげえよ」
「は?全然長くないでしょ。アンタのキノコの話よりよっぽど短いわよ」
「うっ……」
何も言い返せなかった。確かに長くない。長いと言うより簡潔にまとめたと言うのが正しい。いつもならこのクソガキって言うところだったが、今それに値するのは俺の方だった。
そのまま黙っていると、
「あたしね、決めたんだ。アンドレア」
「何をだ? 」
「何って、この後のことに決まってるでしょ? 」
この後のこと、って言えば、アンビジオーネから逃げ続けるのか、戦うのか、ということだろう。
「そうか」
あえて、どっちにするんだ?って言う風には聞かなかった。
「あたし、戦うよ。逃げ続けていたって変わらない。だったら、戦って自由を得たい」
俺は黙ってアリシアのを見た。
「村の子達ね、あんな暗くて怖い洞窟に子供たちだけで行ったんだもん。あたしが逃げていたんじゃ、カッコ悪いじゃん」
今度は俺は首を静かに縦に動かした。
「だから、あたしも強くなる。アンドレアやガードナーに守ってばっかだったら、迷惑だもんね」
ひと呼吸おいて、
「だから、よろしくお願いします」
アリシアは深くお辞儀をして、ゆっくりと戻した。
「ああ、よろしくな。俺も全力で協力するよ」
と言って、右の拳を前に突きだした。アリシアも笑みを浮かべて左の拳をそれに合わせて目を合わせた。
「なんか、かっこいいね」
「ふっ。大人をからかうなよ。クソガキ」
照れてしまってついそう言ってしまった。
「はあ? アンタあたしとそんな歳離れてないじゃん! 」
そう言って再度目を合わせると、2人は「あははははは! 」と笑いあった。
アンドレアはアリシアと離れて祭りを眺めていると、イーサンの姿を見かけた。アンドレアは今特に話し相手もいなかったので、近づいた。
「なんだい、もうイタズラはしないよって言ったじゃないか。面倒だねェ。坊やは。ウィヒヒヒ……」
「まだ何も言ってないだろう。早とちりがすぎるぜ、婆さん。」
「ウィヒヒヒ……。そうかい。そりゃ悪かったね。私ももう何もしないよ。もう一度言うけど、ほんとさ」
「ああ、分かってるよ」
「これからは村も大事にするし、坊やたちも何かあったら手を貸すからねェ……。ウィヒヒヒ……」
「そりゃどうも」
適当に返しておいた。
「それよりも坊や、どうしてこんな所にいるんだい?坊やはこんな所にいるような人間じゃないだろ?ウィヒヒヒ……」
「なんのことだ? 」
「誤魔化しても無駄だよ。その光の双剣。分かる人には分かるさ。まあ、古い伝説級のものだから、あまり騒がれなかったんだろうがね……」
この婆さん、ガードナーと同じで知ってやがるのか。
「だとしたら坊や、すごい大変だっただろうねェ……」
イーサンは少し哀れんだ顔を見せる。
「……いいや、そうでもないさ。俺はあの時よりも楽しんでるよ。これから、ちょっと大変そうだけど。それと、多分婆さんの考えていることは多分正しい」
「そうかィ。坊や、これからも頑張り。そして、アリシアちゃんを大切にしな。あの子はいい子だよ」
それはアリシアが婆さんを許したからだろ、と心の中で突っ込みつつ、
「ああ、そうだな。もしかしたらアリシアの方が大変だったかもしれない」
「私は坊やたちの味方だからね……。ウィヒヒヒ……」
「ああ、ありがとうな。イーサン婆さん」
そうイーサンに告げて、他の村人のところに向かった。