天地否 3/5
ここは新すく建てた奥座敷。為信は子らさ囲まれ、楽すそうにしゃべる。……あくまで “楽すそう” にだ。
一昨年に生まれた平太郎(信建)と、昨年の冬に生まれた総五郎(信堅)。なんともめごい限りだばって、……心の底より楽すめね。
隣さは正室の徳姫が座す。深えところでどった思ってらんだか知らね……。もはや覚悟ば決め、津軽家の母さなったらすい。為信は徳姫さ問う。
“おめは、幸せが”
“はい。殿の傍にいるはんで、幸せでございます”
万遍の笑みで返すてける。そった彼女の腹ば見ると……こんもりと盛り上がっちゃあ。徳姫はこのようにしゃべった。
“男二人続いだとこで、今度は女がよろすいね”
侍女らも共に微笑む。
"……これが、目指すちゅう平和なんが"
影さは、地獄で漂う亡霊が見える。
……とある春のうららかな日。為信は家来ば連れ出す、城下さある長勝寺へと向かった。為信は命ずた。
“各々、気っこ向ぐままに地獄ば描げ”
和尚は、硯と墨や半紙などば配る。黒と白の世界、どった風に描いてもい。
一人目は、なんともありきたりな絵ば描いた。鬼が金棒ば持ち、罪人たちば懲らすめるべとすてら。
二人目は、なんぼかは絵心があるんた。針の山や灼熱の様ばありありと描いてら。……ただす、心さは響かね。
三人目はというと……閻魔大王をでっけく、小っちぇえ無数の蟻のような人間がひれ伏すてら様だった。こったとらえ方もあるびょん。
為信も自ら筆ば取り、己の思う地獄ば描き出す。




