天地否 1/5
本陣も大光寺城さ進む。座っちゃあ林ば抜け、見晴らすのいいんた田んぼの、細え畦道さ入った。へば……向こう側の林から、南部の二羽鶴の旗っこ見えた。
滝本勢七百、大浦の本陣ば急襲する。予想外な事態さ兵らは叫び、倒されてった。組織すてら火縄隊は意味ねえ。敵兵はがばっと矢ば浴びせかかり、怖かねがるところば討ち取ってく。田んぼさ転げ落ちた者、泥まみれさなりながらも起き上がって、敵兵と取っ組み合いばする者。ただす助太刀さ入った敵さ横より刺される。
為信が危ね。
まるっと捨て、大浦城さ戻るべとす。滝本は “あれが為信ぞ” と指さす。敵の意気は高まり、こちらさ向かってく。
己の馬は、どこかさ行ってまった。おい、そこの者。馬ば貸せじゃ。……んだ、そうだ。大将が死んでまれば、津軽統一は果たせね。今は退いて、様子ば見るべきだ。
そん時、為信の乗る馬の尻さ、槍が突き刺さる。馬は大声ばあげ、高く足ばあげた。為信は後ろさ倒れ、田んぼの泥の中さ転げ落ちる。
兜が外れた。紐が切れる。長く伸びたあご髭、汚ねえ泥さ浸かる。虫など毛ば歩ぎ、体の至るところば走る。為信さ、そったのば払う余裕はね。
……近くの者が兜ば拾い上げ、自らかぶった。田んぼのあぜ道さ仁王立ちす、敵兵さ刃ば向ける。“我こそは為信だ” と叫び、勇ますく敵兵の中さ飛び込んだ。
為信はなんとか田んぼより足ば出す。草履はねくし、裸足のまま大浦城へと駆けてく。
そのうち、異変さ気付いた第一陣と第二陣がこっちさ来る。滝本はなしてなんずと襲うのばやめ、大光寺城さ引き上げてった。……沼田は本陣ば見つけることできねく、近くさいた第二陣の小笠原さ知らせた。こちらの兵らも弱くなってたばって、本陣が倒されてはいくねえと急いで探すたのだ。
こうすて、大光寺の初戦は滝本勢の勝利さ終わる。まんず多く錫杖の旗っこ戦の泥さまみれ、神仏の加護だけでは勝てね相手だと証明すてら。ただ一つ、卍の旗だけが汚されることねく戻ったのは幸いだかな。