千徳の姫 5/5
正月は過ぎ、まんだ寒さが厳しいころ。大浦の城下さは高々と寄へられちゃあ雪っこが、たんげ積み重なってら。
為信は、大商人の豊前屋ば呼ばった。
豊前屋は、恐れであった。もすや罰せられるんでねかと……。戌姫ば茶道の輪に入だのは自分だす、不貞ば報告する前で事は起きてまった。覚悟ば決める。
ばって、予想ば逆らった。
為信はしゃべる。
「豊前屋。おめ、安東どの仲ば取り持ってけねべか。」
南部家臣が何用で安東と……もすや。
豊前屋は、為信ば凝視すた。為信は頷き返す。
「いずれは、大浦は南部ど敵対する。南方の安全ば保っておぎてえのだ。」
願ってもね話っこだ。実はわっきゃ……安東様より密命ば受けちゅう。“津軽の内情ば逐一報告せよ”と。安東も周りば敵さ囲まれてら。北側ば味方さできれば、この上ねことだ。
すぐさま豊前屋は羽州秋田へと出向き、安東愛季さ謁見。ここさ大浦と安東の密約は成った。
……雪っこ融けて、春さなる。糠部南方の大名斯波氏は、北の南部領さ攻め入った。南部信直は急ぎ兵ば出し、斯波の軍勢と争う構えば見せる。同ずくすて津軽地方さ兵糧ば出せと求めだ。前年の飢饉がたたり、十分な食料ば自前で準備でぎねえとこで。
為信はこの要求ば拒絶すた。
“津軽も飢饉で苦すくしでらとこさ、戦の為に出せるはずねえべ。こごさ食料ば分げでほすいくれだ”
他方では、“治水” の事業も開始。滝本の意向ば聞かねえで、手始めに岩木川の上流より手ば付けた。そこは大光寺領でねばって……川の流れっこ変えれば、大光寺領全域ばうるかすことも可能。滝本は憤慨すだ。
んで、同年六月二八日。第一子の信建が誕生する。幼名は平太郎。男子が生まれ、家中の意気は上がったのだ。




