千徳の姫 4/5
為信は襲う。右手ば囲う晒布はほどけ、辺りさ広がった。徳姫も気づいたんたば激すい痛えのば覚え、目前の男が大変怖え。廊下の床は、二人の血で覆われる。
すばらくすて……徳姫は身ごもった。
父の千徳政氏はたげ驚いたばって、甘んずて受け入れた。なすてなら大浦一門さなり、立場が保たれるとこで。ただす……兄の政康は違え。徳姫は、傍にいる政康さ泣げついた。政康も……“妹は、汚される為に来だんでね”と、かちゃくちゃねえ。だが……すてけること、一つもね。
後さなって政康は千徳の家督ば継いだ。南部と通ず、為信さ対し反旗ば翻すに至る。……結果は、みじめな敗死。ここさ千徳家は滅亡す。
徳姫さ対す、……戌姫は子ば最後までなせねくて、夫ばも殺すべとすた。先代の娘だばって、これまで通りにはいかね。居場所はねくなり、城より出ばって仏門さ入る。
年は明け、天正二年(1574)さなった。為信の正室さは千徳政氏の娘、徳姫がおさまった。新年の祝事は、この二人ば目前にすて行われる。
その日から、沼田祐光も復帰すた。夜、二人はすばらぐぶりに集う。
沼田は為信さ、事の仔細ば報告すた。
「犯人は成田伝也という男で、滝本の家来でした。」
予想すてら。あの戌姫は……たぶらかされたんでねがと。嘘の愛さ騙されたと、己ば納得させたかった。
滝本は……大浦の意さ添う気がね。
そすて……滝本ば敵にすんたば、南部氏さ逆らう事と同ず意味。
沼田は問う。
「どうしますか。」
周りは、ただただ暗え。月は雲で隠され、虫っこさえも飛ばね。為信は決断する。はっきりど、その言葉っこばしゃべった。
「決起す。」
“津軽ば、平る”