岩木山、雪の陣 3/5
二人は原野ば抜け、寺さ続く山道ばあさぐ。周りば小高え杉の木で囲み、葉や枝っこさつく雪が揺れ落ちてく。
寺がどうなってらかはわかる。倒れちゃあ者もいるべ。すでに昔の初陣で慣れた。武士だば当然、そうであらねばなんね。
……山門さ入る。雪赤く染まり、山法師らがくたばってら。……これまで民から食い物やおなごば奪て、聖域ということさ胡坐ばかき、仏の道を極めね輩。
……脇の禅堂より哀すげな声っこ聞こえる。……おなごのわめき。為信は頭ば抱える。”……こいだば、不埒な法師どもど同ずでねが” 為信の顔は険すい。隣の面松斎はしゃべった。
「……他国者、特に"はぐれ者"なればこそです。」
日々を懸命に生きてら。身寄りもねえば、何時のたれ死ぬかもわかんね。今すかできねことばすちゅうだけ。
二人は一揆の大将である万次のいる仏殿さ入る。扉ば開けると、荒れ狂う者らは広い板間でたむろすてら様に見えた。装いの違え為信さ、すべでの視線が注がれる。目ばよけるべと壁際さ顔ばやるど、そこさは縄で縛りつけられてら法師がおり、体のいたるところから血ば流すて悶えてら。
万次は荒れ狂う者らよりも上段、首の欠けてら釈迦像の肩さ寄りかかっちゃあ。笑みば浮かべ、饅頭ば喰らってら。ここさ気付くと、手に取っちゃあの下さ投げ捨てた。
「おお、為信様が。」
大声で二人ば呼る。為信は人ばかき分けて進む。できる限りの笑みば浮かべでしゃべりかけた。
「うむ、ご苦労。今夜中に引ぎ上げるようにしへえ。」
万次は手下さ指示ば出す。
すると、すばりつけられてら法師らば殺めでいく。思い思いの方法で。悲鳴は血すぶきと共にねくなる。
”……やりすぎだ” 為信に、笑みば浮かべるだけの余裕はねくなってら。万次は言い放つ。
「当然だ。この話ば、この様ば、こごさ為信がいるのば見られでらはんでろ。」
”……禅堂のめらはんどもが”
「そうだ。あのまま逃がすたっきゃ、私らの噂いぐねくなるべな。」
”これが、私らの流儀だ”