千徳の姫 3/5
……千徳の姫。人質とすて大浦城さ来た彼女は、今年で十六さなった。丁重に扱えと殿が指示ば出すてあった故だべか。下っ端の侍女だばって、一番いい着物ばまとう。袖にある牡丹の花っこ、ちっちぇくて可愛い。
為信は、彼女さ酒ば注がせることにすた。隣さ呼ばって、小瓶ば渡す。……だばって、名前はなんちゅうんだが。思い出せね。
“はい。徳ど申すます”
んだ。“徳姫” だったな。すまね。千徳から預かってら大切な娘だ。暮らすに不足はねか。
この時、徳姫は考えてら。彼女は戌姫付きの侍女だ。すいて言えば……不貞の事実ば知っちゃあ。周りの侍女も同ずだびょん。だはんでこそ、戌姫のことで心苦え。
ばって、今は戌姫のことば口さ出すてはまね。為信の逆鱗さ触れる。
一方で……他の侍女は期待すてら。彼女だば……聞き出せるのでねがと。彼女は同盟者千徳の娘。無下にはできね。隣の年老いた侍女などは、体ば揺らすて徳姫へと促す。
徳姫は “まねじゃ” ともしゃべれず、考え込んでまった。為信はその顔っこば見で、何かいくねく覚えた。
ただ、その横顔……美すかった。思い悩むその表情は……かつての初恋の人さ似て
らった。婿になる前、石だらけの久慈浜で遊んでらころ。目さ焼き付いた一人の女性。
丑の刻さ入り、酒で酔いつぶれた侍女ら。為信はまんだあおり続ける。隣さは徳姫。彼女も他の者と同様で、すでにうとうととすてら。
薄暗え広間。灯の油は切れかけ、既に消えてらとこもある。
為信の心は晴れね。その時……徳姫は力尽き、為信の胸元さ倒れこんだ。為信は……徳姫の体ば無傷の左側で抱え、その場さ立つ。わんつか引きずりながら……襖ば開け、広間より去る。
為信の通った所さ、まんたにずみ出てら血が垂れる。廊下さは、曲がりくねった線が描かれた。




