千徳の姫 2/5
敵は背後ば斬られて、無残に死んだ。その様ば見てらった戌姫は、ちっちぇな太刀ば手さ取る。自らの喉ば刺すべどすばって、手が震えてまりどうすこともできねかった。
……為信は悟った。
戌姫は、私ば殺すがってらのだと。
かつては心通ず合った二人、本心ば打ち明けることのできる人物は、まんた一人減った。正確にしゃべれば既にそうでねのだが、そうであってほすかった。
為信は、右手ば真っ白え晒布で包む。次第に赤え血筋がにずみ出でくる。絶え間ね痛みが、全でば襲った。
……最初に為信ば守るべとすた三人。二人はいくね出血で、そのまま亡くなった。沼田はかろうずて助かったばって、すばらく出仕はまねびょん。
為信は、一人さなったような気持ちに襲われた。行きつく先さ、共に祝う仲間がいね……。
血が、晒布の端ば伝って床さ垂れる。周りの者は慌てて晒布ば取り換るべとする。為信は黙って、手当てば任せた。
傷は深く、右手で拳ば作ることかなわず。ただただ広げたままの状態で、なんぼも巻かれてく。
医さ詳すい乳井は “今夜は早ぐ休みへ” としゃべる。だばって、なんも眠れるわけね。痛みは続き、心の鼓動も激すいままだ。
……んだ。夜中通すて飲み明かそうでねが。すでに為信ば諫める老臣はいね。兼平は死に、森岡は去った。戌姫付きの侍女も含め、城内さいるすべでの女ば集めろ。
……なに、襲うことはね。右手がこった状態なのに……交わることなどできるか。
こうすて、広間全体ば使って宴会が開かれた。併せ五十人もの侍女は顔っこば引きつらせ、為信の機嫌ばうかがう。彼女らの頭の片隅さは、戌姫のこと。彼女の行く末ば案ずながら、しゃべられるがままに酒ば呑まされる。
今話を修正してくださった編集者です。ありがとうございました!
だっじ/dacci
@SoraikeYoh