千徳の姫 1/5
久すく、戌姫の部屋さ入る。横さ茶釜が置いでれ、奥の屏風のアザミはたんげ重なっちゅう。それは紫色で、一本一本の毛も余すことねく描かれてら。
津軽ではアザミば食用となす。ただす似たんたものさヤマゴボウがあり、口さ入れると死に至る。
戌姫は屏風の手前さ、こちらが見えるように座すてあった。左の手のひらは為信さ座りへと促す。為信は刀ば横さ置き、胡坐ばかいた。
……静寂が流れる。すばらくすて、戌姫は茶釜の方さ退いた。柄杓ば手さ取り、茶ばいれるべとしちゃんだか。
その時だった。でっけえ屏風はこちら側さ倒され、一人の優男が刃ば向けた。躊躇うことねく襲い掛かる。為信は刀ば抜く暇ねく、鞘で身ば守った。敵の舌打ちで、唾が顔さ飛び散る。
“おい、誰が” と為信は叫んだ。すると先たまで傍にいてた沼田など三名が駆けてくる。
敵は為信よりいったん離れ、三人ば一挙に相手すた。手筋はただでねく、かわるがわる翻弄すてく。一人目は腕ば切られ、二人目は顔ば斜めに血すぶきばあげた。沼田も果敢に挑んだばって、脇腹さ傷ば受ける。
いよいよ為信だ。為信は刀ば抜き、敵と向かい合った。だばって力量は歴然としちゅう。敵は襲い掛かり、為信と刃ば交えた。ギリリと音ば立てながら、為信は次第に押されてく。ふと戌姫は何しちゃあかと横ば見る。その瞬間に油断がたたったか。刀は宙さ舞う。
そすて今にも切られるべどする。為信はその右手ば前さ出すて、身ば守るべとすた。……右の手のひらの丁度上から下まで、一直線に凶刃が入る。経験すたことのねえ痛みが全身さきた。
敵は続けざまにもう一振りするべとする。すると外からはドタドタと家来が集まる音がたつ。当主の危機さ気付いた者らがまんた集まり出すたのだ。
そのとき為信は敵の足ば蹴った。予想外の行為さ、敵はそのまま体制ば崩す。刃持つその手より奪るべと揺り動かすた。敵は奪われねように必死に抵抗する。
その時、戌姫は……為信さ、茶碗ば投げた。互いの目が合う。