亀裂 5/5
為信は悩ますい。
まず初めに “防風” から手掛げたばって、一向に進まね。松や杉ば植えたのはいばって、強え海風さ煽られで失敗。次に藁などで周りば囲い、寒さから守ってみたが、そえでも枯れた。土台が砂地だとこで、根付きにけえのだ。だば……と思い、山の土ごと持ってきて、その上さ植えさせた。へば……今度は薪さ使うなどとしゃべり、領民が勝手に切り取ってくのだ。……警護はいるばってそれすら避けて、まるでイタチごっこ。
海沿いに植林が進めば、平野で採れる作物は増える。領民は目前の利益ばす優先す、遠け先のことば考えね。どうすたものか。
“治水” はというと、まったくまね。滝本が一向に頷がね。……従わせんには、“津軽郡代” ば名乗るのもいかもと思い始めた。郡代の地位ば使って、命令ば出す。そこさ……新たな家ば興すなどという必要もね。なすてなら、大浦の当主は為信ただ一人なんだはんで。
あちこち領内ば駆けずり回る日々。……今年は不作だべか。実りが少ね。民が飢えるのば防がねば……と考え込む。
……城さ帰ると、門前さ一人の侍女が待ち構えてら。今日の夜、戌姫の部屋さ行ってほすいとしゃべる。
珍すいことも起きるものだ。義弟が死んでからというもの、戌姫は私ば避ける。私もどう接すればいいかわかんね。
葬式の場で、滝本が放った言葉っこは忘れられね。
“おねの企みだべさ”
私が殺すたと喋ったのと同ず。……殺すてはねばって、否定もできね。一時は殺さねでも済むのでねがとも考えたが、避けて通れね道だったのかもしれね。
わっきゃ戌姫にはっきり “違え” としゃべれねかった。彼女は……見抜いたべか。今となっては分かんね。
……夕餉は簡素な麦飯で終まう。きたる飢饉さ備え、贅沢はできね。
為信は一息つく。そすて、戌姫の部屋さ向かる。