亀裂 2/5
“ねえ……なあが殺すたんだか”
戌姫は為信さ問う。
“そったはずねえべな。殺すたのは兼平だ”
“わがってら……そったごど”
滝本の言葉っこ……。もすや為信は、兼平ば使って二子ば殺させたんだか。
せめで、滝本はそう思ってら。間者からの情報だば、為信さ二子ば殺すべどいう企みはあったど。このことば公言すれば、大浦家は大混乱だ。為信もたんだで済まね。
滝本は事の次第ば、山ば越へで三戸の南部信直さ報告。亡き大光寺の従兄弟、北信愛さも伝えられた。
当然だばって心象はまねくなる。特に信愛は、為信が大光寺ば殺すたと疑いば強くした。一方で信直さは、まんだ信ずたい気持ちっこがある。
……疑心暗鬼。秋の収穫ば終え、冬さ入る。戦は起こんねまま、新年ばも迎える。
当然、滝本は大浦家さも “為信、疑い深す” との一報ば入れてら。ばって目論見ははずれ、ほどんどの家来はそれば信ずね。
なすてなら、当日も “津軽郡代” に関する話す合いがされであった。鼎丸様ば大浦家当主とし、為信は郡代さなり新すい家ば興す……二子ば殺す理由がねのだ。兼平という気違いが起こすた事故ですかね。
……一方で森岡は、無言の抗議ば行う。彼のことば詳すくしゃべると名は信治とい、息子は四人いる。その誰かに跡ば継がせ、隠居するべと決意すた。信元という人物が四人の中から選ばれ、大浦家さ仕えるに至る。
この森岡信元、兼平綱則、そすて武者修行中の小笠原信浄。三人のことば大浦三家老と呼ばるのは後の話。
とにかく、滝本の目算は崩れた。まったく大浦家中は混乱すね。まとまっちゅう。
……だば、次の策ば講ずるまで。
為信よ、死にへ。罪ば償え。