二子殺し 5/5
夕暮れ時、為信と沼田は高え櫓さ集う。津軽郡代襲名の話っこが進んだはんで、二子ば本当に殺す必要があるんだか。八木橋の案だば……鼎丸は永遠に為信の下さあり。当主の座ば争うことねく、でったらだ力ば持たせることもね。
……そこさ、慌たたすく走って来る青年一人。兼平綱則だ。顔っこは青白ぐ、息はたんげ荒げてら。
「父上が、父上が……。」
為信は下さ呼ばった。もすや死んだのかと問う。
綱則はその場さひれ伏す。
「申すわげねえ。」
なんなんだかわかんね。二人は梯子で櫓から下りる。顔っこば上げさせ、どうにか落ち着かせるべとすた。
……綱則の後ろからは、家来や使用人などが慌ててここさ寄って来る。そすて叫ぶのだ。
「兼平盛純殿、鼎丸様保丸様ど共に川さ沈んだ。」
日は今にも落ちるべとしちゃあ。小舟は底ば浮かせたまま。たんだ黄色い光ば浴びてら。
三人の遺体は、わんつか下ったとこで見つかる。魚ば取るための網さ絡まり、既に生前の形ば保ってねえ。
戌姫は、二子ば抱きよせた。そのまま城さ帰るとしゃべる。二人ば抱えるのは難すいはずだばって、どうしてもと駄々こねる。為信は無理やり引き剥がすた。
戌姫は、泣き崩れる。
為信は、沼田の方ば向いた。沼田は首ば振る。
日は沈む。月は無く、ずんぶ暗え夜。
兼平綱則は、為信と密かに会う。父の遺言ば伝えた。
“大浦家は本筋のみの物でねぐ、家来領民の物なり。家中の乱るるんたこと、家来領民を苦すむに至る。先君一人の意思にかって、全でば決めるべぎ事でねえ”