二子殺し 3/5
八木橋は続ける。
「“為信”どいう人物は、でっけぐなりすぎだ。一代にすて領土ば倍以上さ広げだのだ。」
んだ、そえで。
「跡ば継がへる鼎丸様。果だすて当主が務まるかして。」
森岡の顔は、険すくなる。
「偉大なる前当主が背後さおり、びぐびぐすながら過ごされるのだ。一挙一動を家来がら見られて、殿ど比べられる……。そのうぢに殿の存在がおっかねぐなり、全でがら逃げ去るやも。」
森岡は我慢できね。怒り口調だばって、わんつか抑えながらしゃべった。
「……で、何ばしゃべりでえ。」
「はい。鼎丸様には退いでいだだき、一家臣どすて……」
森岡は八木橋の頬ば叩いた。慌てた沼田と綱則は彼らの間さ入る。そえでも八木橋は続げるべとする。
「一家臣どすて、殿さ従っていだだぎだいのだ。」
しゃべり切った。森岡はまんた暴れるべとすたが、沼田と綱則さ抑え込まれる。森岡は叫ぶ。
「先代の思いば分がんね奴め。」
“おめはなあ。若えはんで知らねんだべ。先代がどんき息子達の行ぐ末ば案ずで死んでったが考えろじゃ”
息ば切らすてら。八木橋は腰ば抜かす、その場から動けね。ここで為信は口ば開く。落ち着いた表情で、昔ば思い出すかのように。
「んだな……その通りだ。」
“先代より懇願されだ。鼎丸ど保丸ば頼むど。……あのやづれようは、見でいられねがった”
森岡は静まった。沼田と綱則の手ばほどき、元の場さ座りなおす。八木橋はそのままだ。
話す合いは進まず、わんつかすて散会となった。後には為信と沼田が残る。……森岡の乱れようば見で……慎重に事ば成さねばと改めで思った。




