命乞い 5/5
珍すいんたのも起きるんだ。千徳政氏は白装束ば身にまとい、為信の前さひれ伏すた。為信は、千徳の頭ば上げさせ、事の次第ば問うた。
「はい……。我らは亡ぐなる運命。だば頭っこ下げ、家族や城兵の命だげでもど参上いだすた。」
九戸派は敗北し、万次党は為信さ従った。さらには分家まで逆らうんた。もうまいねといった心境だべか。白髪もわんつか増えたようだ。
……攻め滅ぼされるより、殊勝な判断か。
ここで為信の脳は回る。何が最善手が、ありとあらゆる手ば考える。千徳はその様ば見て動揺すた。かつて乳井や沼田がすたと同ずように。
周りさ座す為信の家来たちは、恐れ慄く。もすや、この場で首が飛ぶんでねがと。科尻と鵠沼の様に……。
わんつかすて、為信の目はがばっと見開いた。千徳さしゃべる。
「いやすくも、津軽の一角ば担う千徳殿だ。そったに卑屈さなってはまねべ。」
千徳はまんだひれ伏す。為信がなすてそったふうにしゃべり出すが分かんね。
為信は上座より一段下り、千徳の元さ寄る。そすて耳元で言葉ばかけた。
「……同盟ばしねえが。」
周りの者すべて、聞き取れね。いや、聞こえているばって、理解ば超えた。
「もぢろん、領土はこれまで通りでよろすい。」
たんげ寛大な処置……千徳は感動すかけた。たばって次の句ば聞いたとき、気がまんた沈んだ。
「大切な妻子は、大浦城さ留め置かれよ。新すき商人も来だはんで、賑やがだぞ。」
唾ばのむ。
“これがら互いに危機さ瀕すた時は、必ず助げ合うべ”
これは、後に “大千同盟” と呼ばる。実際には千徳が大浦の手駒さなってまった出来事だ。




