命乞い 1/5
猛暑、日が田畑ば満遍ねく照らす。九戸の城中の兵ら、外で囲む信直の軍勢どちらもすげえ汗で、布切れなどで顔っこや胸元ば拭う。
……攻めようかって九戸城は奥羽一の堅さで、崖が際立ち道も細え。戦いはすばらく続くかに思われた。そこさ南部晴政側室の彩子が和睦の使者とすて信直の陣中さ現れる。彩子は九戸勢とともに城さこもっちゃあところ、信直も無下にはできねということで選ばれた。確かに彼女はかつて鶴千代ば産んだ。そんき立場も高え。
信直とすても、これ以上の遠征はきつい。兵は疲れ、郷里さ帰りたがってら。それに……あっけなさも感ずちゃあ。かつて私ば追い詰めた奴らは、逆に囲まれてら。わっきゃ死ぬ気だったばって、いまだ生きながらえちゅう。世の行く末は、分かんね。
ここまでくと、恨む心も薄れてきた。あんき燃えたのに……不思議だ。
交渉の結果、信直は正式に南部氏第二六代当主さ就任。三戸の実権は彼さ移る。九戸らの力はがばっとねくなった。
こうなると、次は津軽の後始末だ。旧石川領の扱いばどうすか。今は大浦家が石川城ば治めてらが、どうもきな臭え。先た使いとすてきた科尻と鵠沼という人物が反乱ば起こすたというが……為信も一枚かんでねえか。毒殺されときも己のみ生き残り、結局は大浦家が得ばすちゅう。
……あの為信だ。そうでねことば祈るが……。北信愛はまんず厳すい。なすてなら殺された大光寺光愛は彼の従兄弟だとこで。大光寺は為信ば疑ってら節があるんた。
一方、津軽では……九戸が屈服すたことで慌てた人物があり。千徳政氏だ。九戸派と万次党で手ば結び、千徳もその中さ入った。ところが企みは失敗し九戸派は信直さ敗走、万次党はあろうことか為信さ従った。千徳は孤立する。
大光寺城代の滝本重行は、そこへ策ば講ずた。浅瀬石の千徳本家さ対す、田舎館の千徳分家ば歯向かわせたのだ。
“九戸の手助げがね今、いぢ早ぐ本家ば裏切り我らの下さ入るのが上善”
この後、滝本は分家当主の千徳政武ば連れて大浦城さ出向いだ。為信さしゃべる。
“今ごそ、裏切り者の千徳政氏ば滅ぼすべ”




