運の強さ 5/5
「科尻ど鵠沼、二人の企みさ気付げねがった罪は、万次ば殺すてごそ償われる。」
小笠原は動揺すた。為信は真顔で続ける。
「急にどはしゃべらん。もぢろん、おめさは万次さも恩はあるべ。だばって、だはんでごそ、おめさケリばづげさせる。」
なかなか頷くことはできねえ。そのまま硬直する。次に為信は、沼田さ顔っこば向けた。
「沼田殿は近ぐで見てらはんで、わかっちゃあべ。こった者らはいねが。」
“例えば、九戸ば裏切り大浦さ従うのは節操がねど思う者。助げるべど思えばでぎだばって、科尻ど鵠沼ば見殺すにすたど非難する者、あるいは殺すた張本人であるこの為信さ従うのば良すとすね者……”
沼田は “確かにいます” としゃべり、頷い(こまっ)た。
「沼田殿はこれらの者さ近づぎ、意見の異なる者同士ば憎すみ合わせるのだ。」
“すかる後に、小笠原が万次ば暗殺する。仲間内の誰がが殺すたど思うべな”
……この人物は……為信なのか。沼田も思った。前どは違え……何が違え。
沼田は、為信さ問うだ。
「それは、“本心” ですか。」
為信は、一瞬止まる。
わんつか考え、真顔で問いさ返すた。
「“本心”でねばって、やんねばまねごどだ。」
万次が従っても、いずれは牙ばむくかもすれね。だば今のうちに犠牲ば払って、虞ばねくす。……生き残るために。不確かな “運の強さ” などさ頼ってられね。
沼田も察する。為信は死地ば通った。世の厳すさ、哀れさ。すべてば見だ。私さは到底想像つかねような情景ば。
最後に為信は立った。小笠原さ言い放つ。
「これがでぎねんだば、もはや大浦家臣でね。」




