運の強さ 4/5
梅雨明けた。今年はたんげ、高くと日が照り付けてら。為信がむったどの政務ば始めるべと筆ば取ると……家来が知らせさ来た。
「門の先さ、“沼田祐光”ど申す武士、殿さ会いでえど参上しちゃあ。」
沼田……。聞いたことがね。誰だべかと思い、為信は門遠けから見える櫓さ移った。すると彼は……面松斎だった。占いばするときのおかしけた恰好でねく、凛々すい姿。正装の直垂、それも紺色辺りの光で輝き。こんきまで印象が変わるんだかと驚いだ。
為信は城中さ、面松斎ば招き入れた。面松斎改め、沼田祐光は為信さ伝える。
「私はこのたび、万次様の使いとして参上いたしました。」
“ふっ……”
「万次様は、殿と会って話がしたいと仰せです。」
“とうどうぎだが……”
為信は人払いばす、新たに小笠原だけ呼ばった。この広間さいるのは為信と沼田、小笠原だけ。
すると沼田は急に声ばあげ、為信の傍さよった。そすて両手ば握り、額ば甲さつける。すばらくはそのままで、感無量の至りといった感ずだった。為信の無事ば心から祝う。
ここで為信は、沼田さ問うた。
「万次は、根ばあげだんだか。」
沼田は答える。
「先々のことを考えてのことでしょう。九戸派は不利ですし、港の権益も殿が締め上げているせいで入りにくい……。先細りは確実です。そこで殿と親しい私に、白羽の矢が立ったのです。」
為信は、沼田の手ば一旦ほどいた。脳が急回転ばす始める。
……沼田は、初めで見せる為信のその顔っこさ戸惑う。ぼーっとしてらんた、一方で鋭い気ば感ずる。
すばらぐすて、為信は口ば開いた。
「小笠原。なあが、万次ば殺せ。」