岩木山、雪の陣 1/5
……冬は眠ぷてえ季節。ずっと春ば待つ。
そった悠長なことば、民はしゃべっていれね。秋の収穫はまんずわんつかで、さらには相川西野の乱にかって兵糧徴収。在来の民にとっても苦しかった。
為信は家来衆さ蔵から兵糧米ば施すべとたんげしゃべったばって、願いっこ叶わねんでら。次の戦さ備えてとっておかねばまねと、煙たがられちゃあ。
民ば苦すめておいて何が戦だと心の中は煮えたぎっちゃあばって、無理やり抑え込んで平静ば保つように努めるすかねかった。
“偽一揆” は、雪っこ降りやんだ日に決行された。その日は偶然にも正月であった。万次は他国者だけでねく、仲間の荒れ狂うのも集めたはんで、為信の思ってら数よりもよけえいた。その数、三百人。
万次たちの寺さ近づく音は、降り積もった雪でまったく聞こえね。聞こえてらとすても正月だ。法師らは酒やおなごさ夢中で、外さ何があるかも気付かね。
……こった寺だはんで、正月に訪れる庶民などいね。
一揆勢はそのまま山門さ突入。荒げねえ奴らが門さ体当たりすると、屋根さ積もってら雪が音ば立てて下さ落ちる。中の者はそれで目ば覚ます。ぼんやりすてらうちに、門は解き放たれた。あくまで抵抗しちゃあ者もいたばって……呑んだくれの力は皆無。生き残った山法師らは仏殿で縄さかけられ、荒れ狂う者らの苛めさ使われた。
解放された女もまた、餌食となった。
山の異変さ気付いた民の中には、本物の一揆だと勘違いすて参加る者もよけえいて、併せで四百人の規模となる。
……岩木山は大浦城より西側。大浦家の領内だ。一揆勢ば鎮圧するため、為信ば総大将とする総勢千人の兵が岩木山山麓の百沢さ着陣。ただす、実質的な指揮権は家来の森岡が持った。彼は大浦家の古参であり、老練な戦上手だ。
森岡はしゃべる。
「低え方がら高え方さ攻め入るのは難すい。山だばこぢらより雪深ぐ足ばどられる。んだばこのまま留まり、相手の兵糧ねくなるのば待づのがい。」
兵にとっても、このまま付陣す続けるのは苦しい。いつすか雪も降ってきちゃあ。どんき松明を燃やしても、早く終まいたいんに代わりね。
すかす森岡のしゃべる事は、勝つためには正すい。敵は屋根の下で寒さに強えが、いずれ兵糧はねくなる。こちらは城から送ってもらえばい。加えてあちらは聖域。なるべく血ば流すのは避けてえ。
編集者一覧です。皆様、ありがとうございました!
津軽弁MC たろっく
@tsugarujuku017
だっじ@etcSORA
@SoraikeYoh