運の強さ 2/5
「戦は、勝づ為にするもんだべ。」
政栄は信直ば制すた。信直は “何ばいまさら” と歯向かうばって、そのまま政栄は続けた。
「相手は大軍ば擁す、必ず油断があります。見てけれ。本陣ば敵の目前さ置くなど、どんだんず。それに櫛引八幡は木々さ囲まれ、見通すがまね。」
“いい機会だっきゃ”
それも一案だとすて、信直は政栄さ任せた。死ぬ刻が今か夜かの違えだけ。試すに彼のしゃべる事ば聞で見ようと。
こやって、六月凶日。信直と八戸勢は櫛引八幡さ攻め込む。
九戸らは酒ば呑んでら。敵は小勢、もうわんかで信直ば差す出すに違いね。兵らさも前祝いさせ、唄や踊りっこなどばさせちゅう。輝く月の元、勝ちさ酔るすれる……。すると、小雨が降ってきた。屋根のあるところば探す求め、人はばらける。
竹藪|さ隠れるは野兎。杉の枝さ休まるは梟。突如上がった鬨の声さ驚き慌てる。源氏代々の神ば祀るこの場所は、赤く染められてく。
武具ばうちすて、命かながらに逃げてく。九戸勢は勝利の目前にすて、大敗ば喫すた。桶狭間の如く大将の首はねえばって、十分だ。
信直と八戸勢はそのまま夜を駆け、日昇るころに三戸ば襲った。相手は大軍と勘違いばすた九戸勢は戦うことばせず、各々離散すた。城内さ残るは……病床の南部晴政。外の異変さ気付けず、己の痛みさば耐えるのみ。そこさ信直が姿ば現すた……。
晴政は目ばかっと開き、突如現れた信直ば凝視する。信直はにやついた。まんず笑いが込み上がる。ああ、殺すべか殺さねか。すべての因がここさある。
……津軽さ南部晴政死去の報がもたらされたのは、翌年の元亀三年(1572)さなってからだ。信直がこの時に殺めたのか、はたまた苦すみ続けさせることば選んだのかは定かでね。
信直勢は続けて九戸城さ進撃する。味方の兵は増し、一万ば優に超えた。




