家来を斬る 5/5
んだば……小笠原殿ばも殺すんだか。兼平と森岡は恐れた。いまや立派な仲間。ねくしたくね同志。
一方で為信さ、その気はね。なも違えことば考えちゃあ……。
翌日、石川城を攻めた側の軍勢は、もと来た城さ引き返す。城代とすて家来の板垣将兼ば任ずた。……すべて落ち着いたばって、爪痕はでっけえ。九戸派さ付いた千徳氏らはまんだ健在で、虎視眈々とわだちば狙っちゅう。科尻と鵠沼の黒幕……万次党の存在もおっかね。津軽は、互いに動くに動けね状況さ入る。
……城にて、為信は何ば感ずるか。心身ともに、疲れがたまってら。ふと、鏡ば覗いた。やつれた表情がそこさある。当然だべか……すばらく髭ば剃る暇もねかった。毎日丁寧に剃ってら顔っこさ比べ、まるで別人のよう。
“石川高信公が、目の前さいる”
”あご鬚ば伸ばそう” 為信はそう思った。為信の理想は彼だった。わっきゃ彼のように生きるのできねえびょん。ひたすら忠義さ生きること叶わねえ。
顔だげでも、高信公さ近づきてえ。
死地ば乗り越え、家来ば斬った。張り詰めてら気持ちっこが、やっとで緩む。
為信はそのまま、戌姫の元さ向かった。彼女は申す訳ねえ表情で、為信ば部屋さ迎え入れる。その実、戌姫も彼女なりに責任ば感ずてら。鼎丸と保丸の二子は連れ去られた。“わーがもうわんつか見張ってれば防げだのでねが” と考えてまる。
彼女は、謝るべとすた。
それよりも先に、為信は戌姫さ抱きつく。襖は開いたまま。強く、ひたすら強く。
そすて、泣きはずめた。
これからは、心とは違え道ば歩む。何度も“甘さなどね” と言い聞かせたが……おめえだけさはわかってほすい。本当の為信でねのだと。
手前の廊下で、兼平がちょうど足ば止める。泣げ喚く様ば見て……わんつか気持ちが和らいだ。“殿はひでえ人間でね” と。
彼は静かに、その場ば立ち去った。