家来を斬る 4/5
為信は迷わね。甘さはなもねえ。
二人は縄で縛られ、身動きできね。正座の状態で、救いの裁きば待つ。
まずは科尻。凶刃は、彼の首さ振り落とされる。辺りさ血のすぶきが飛び散った。隣さ座す鵠沼の頬さ1も付く。
鵠沼は、おっかねくなった。為信ば、畏怖の目で見る。これがあの殿さまなのか。同ず人なんだかと。
ここで為信は、滝本さ顔っこば向ける。滝本は “わのこどは構らず、やりへ” と為信さ譲った。
鵠沼の前さ立つ。躊躇うことねく、科尻と同ずように首ば切った。
二人の体は、前かがみさなってら。首は、そこらへんさ転がる。その様ば為信の後ろで兼平と森岡も見てら。
兼平は為信にこった一面があったんだかと心寒くなる。森岡には “当然だ” という気持ちもあるばって、将来さ対するわんつかな不安も覚えた。すなわち鼎丸と保丸だ。こったに冷酷さなるんなら、二子ば殺すのもたやすいべな。わはその時、傍でだまって見過ごすことができるんだか、いやできね。
事は終わり、為信は後ろに侍る兼平と森岡さ近寄る。おもわず、後ずさりすてまった。為信は二人さ問う。“小笠原はどうしちゃあ” と。
兼平は、恐る恐る答えた
「実は……自害すべどすておられました。」
為信が大浦城さ戻る前、家来一同が相談しちゃあとき。小笠原は遅れて広間さ現れた。鎧兜は身に着けず、普段着のままだった。……彼の顔っこは青い。自分付きの家来である科尻と鵠沼が反乱ばしちゃあんだ。知らねかったとて、責任は重え。
“腹を切り、お詫びいたす” としゃべるなり、広間の真ん中あたりさ座った。着てら粗末な服ば勢いよくはだき、短刀ば片手さ持つ。慌てて周りの者が止めさ入った。
まねのは二人であって、小笠原殿はまねくね。死ぬよりかは手柄ばたて、忠義ば尽くすのがなによりだ。……やっとのことで、思いとどまらせる。




